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第30回自己抗体と自己免疫シンポジウム

疾患特異的マーカー研究の最前線2023
Cutting edge research topics on disease-specific marker 2023

第30回「自己抗体と自己免疫」シンポジウムは終了いたしました。
多数のご参加誠にありがとうございました。
お問い合わせ: koutaisympo@mbl.co.jp
開催日時 2023年2月18日(土)14:00〜17:30(現地開催、ウェブ配信)
2023年3月20日(月)~2023年9月19日(火)(オンデマンド配信)
開催形式 丸ビルホール/ウェブ配信(ライブ・オンデマンド)
会場 丸ビルホール 丸ビル7階(東京都千代田区丸の内2-4-1)※開場 13:30
後援 株式会社医学生物学研究所
入場・ウェブ視聴 無料
お問い合わせ koutaisympo@mbl.co.jp
開催日:(2023.2.18 東京)
世話人

渥美 達也 (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
桑名 正隆 (日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
藤本 学 (大阪大学大学院医学系研究科 皮膚科学教室)

申し込み

参加ご希望の方は専用サイトよりお申込みください。
パンフレットのダウンロード(PDF:1.67 MB)
抄録集のダウンロード(PDF:463 KB)
→ オンデマンド視聴申し込みフォーム
  ※ウェブ配信は木村情報技術株式会社のサービスを利用して行います。

コロナ対策

本シンポジウムはオンライン配信と現地会場のハイブリット形式で開催いたします。現地会場での開催にあたり、新型コロナウイルス感染拡大防止の取組みを行います。
会場にお越しになる皆様におかれましては、「感染症対策について ご案内とご協力のお願い 」をご一読いただき、ご協力をお願い申し上げます。
また、当日は「健康状態申告書 」に必要事項をご記入いただき、ご提出ください。

Opening remarks(14:00 - 14:05)

渥美 達也 (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)

講演(14:05 - 16:25)
  1. 1. 本邦における筋炎特異的自己抗体による若年性特発性筋疾患の臨床的特徴
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    座長藤本 学
    (大阪大学大学院医学系研究科 皮膚科学教室)
    演者小林 法元
    (長野赤十字病院 小児科・アレルギー科)


  2. 2. iPS細胞由来オルガノイドを用いた眼の再生医療
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    座長渥美 達也
    (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
    演者林 竜平
    (大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞応用医学寄附講座)


  3. 3. 血清エクソソームのプロテオミクスによる新規バイオマーカー探索
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    座長渥美 達也
    (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
    演者武田 吉人
    (大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学)

特別講演(16:25 - 17:25)
ICAP-抗核抗体検査のNew movement-
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座長桑名 正隆
(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
演者三森 経世
(医療法人 医仁会武田総合病院)

Closing remarks(17:25 - 17:30)

藤本 学 (大阪大学大学院医学系研究科 皮膚科学教室)

1. 本邦における筋炎特異的自己抗体による若年性特発性筋疾患の臨床的特徴

小林 法元
長野赤十字病院 小児科・アレルギー科

 特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathies: IIM)は若年性筋炎とも呼ばれ,自己免疫的な機序による炎症性筋疾患であり,病態の異なるさまざまな疾患が含む概念である.1975年にBohan & Peterらにより診断基準が提唱された.その分類の中で,16歳未満の患者は独立した一群として,若年性筋炎に分類された.もっとも新しいIIMの国際的分類基準である2017年のEULAR/ACRの新分類基準では,IIMの分類基準を満たす患者のうち,18歳未満の患者をJIIMとし,そのうち典型的な皮膚症状を示す患者を若年性皮膚筋炎(juvenile dermatomyositis: JDM),示さない患者をそれ以外のJIIMとしている.それ以外の(皮膚症状を示さない)JIIMには,臨床症状や筋病理等による検査所見から,多発筋炎や免疫介在性壊死性ミオパチー,他の膠原病とのオーバーラップ症候群,抗ARS抗体症候群と診断される患者が含まれている.
 JIIMの発症頻度は,海外からの報告では小児人口100万人あたり年間発症率は2~4人,我が国では厚生労働省研究班により,小児人口10万人あたりの有病率が1.7人と推測されている稀な疾患である.多くの小児期に発症する膠原病・リウマチ性疾患は長期に渡る治療が必要となるが,JIIMは,一定数のdrug free寛解が期待できる比較的予後良好の疾患として認識されていた.一方,治療法の進歩にもかかわらず,慢性に経過して皮膚の石灰化や筋障害などの後遺症を残したり,死亡する転機をとる報告も少なくない.近年の研究では,それらの臨床的特徴が,筋炎特異的自己抗体により規定されることが明らかにされてきている.
 JIIMは,筋炎特異的自己抗体(myositis specific antibodies: MSA)と臨床的特徴によるサブグループに分類されてきており,診断から予後予測,治療選択を行う上で,MSAの検査は必要不可欠なものとなりつつある.今回の発表では,JIIMにおけるMSA毎の臨床的特徴と,その病態について概説する.


2. iPS細胞由来オルガノイドを用いた眼の再生医療

林 竜平
大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞応用医学寄附講座

 眼は異なる複数の外胚葉性原基に由来する複雑な組織である.中でも角膜の存在する前眼部は,眼表面外胚葉(角膜上皮,結膜上皮,涙腺),プラコード(水晶体),眼周囲神経堤(角膜内皮,実質),神経外胚葉(網膜)が複雑に相互作用するため,眼表面上皮組織(角膜,結膜,涙腺)の発生や分岐の機構は殆どわかっていない.眼表面は角膜上皮,結膜上皮ならびに涙腺より分泌される涙液(層)により構成される1つのユニットと考えられており,その恒常性の維持は良好な視覚に極めて重要である.我々はiPS細胞を用いた難治性角膜上皮疾患(角膜上皮幹細胞疲弊症)に対する再生治療法の開発に長く取り組んできた.本稿においては,iPS細胞から角膜上皮への分化誘導法を開発する過程において見出した眼様オルガノイドの誘導,さらに結膜上皮組織や3次元の涙腺オルガノイドの作製について述べる.


3. 血清エクソソームのプロテオミクスによる新規バイオマーカー探索

武田 吉人
大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息などの慢性炎症性疾患は,遺伝要因と環境要因が相互作用して形成された分子ネットワークの調節不全により発症すると考えられる.このような複雑な疾患の病態解明や個別化医療に欠かせないのが,網羅的解析(オミクス)やバイオマーカー(BM)開発とされる.プロテオミクスは表現型に近いことから重要視されるものの,ゲノムに比べると解析手技や価格などの問題で遅れを取っている.さらに,最も有用なBMリソースとしての血清は多くの夾雑物を含むために,プロテオミクスには不利であり,有用なBM同定には至っていない.体内のあらゆる細胞から分泌される細胞外小胞:エクソソーム(Exosome)が注目を集めている.脂質二重膜で包まれるエクソソームは,タンパク,核酸や代謝産物を内包するだけでなく,ドナー細胞からレシピエント細胞へと細胞間や臓器間を移動する新規メッセンジャーとして機能するため,健常だけでなく悪性疾患から感染症に至るまで多くの疾患における診断,病態や治療への可能性が期待されている.
 世界死因3位とされるCOPDは,有用なBMがないため,多くの患者が未診断のまま放置されている.最新プロテオミクスを駆使したアプローチによる血清エクソソーム解析から,マウスとヒトに共通BMとしてFibulin-3を同定した.肺の弾性線維成分であるFibulin-3は,診断に有用であるだけでなく,呼吸機能やCOPDの広がりと相関を示した.さらに,機能解析のためにFibulin-3欠損マウスを作成すると,無刺激で加齢とともにCOPDや体重減少などヒト類似の表現型を示した.さらに,Fibulin-3以外にもCOPDの鍵分子を内包するため,血清エクソソームのliquid biopsyとしての有用性が示唆された.同様の手法にシングルセル解析を組み合わせることで,気管支喘息,難病,コロナ重症化の新規BM同定にも成功した.
 このようなエクソソームのliquid biopsy有用性の検討をもとに,官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)「新薬創出を加速する人工知能の開発」により,臨床情報と血清エクソソームの臨床プロテオミクスからデータ駆動的に創薬標的探索を行うプロジェクトが発足した.その対象疾患である特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis: IPF)は,慢性炎症から間質の線維化へと進行する予後不良の難病で,新薬開発に向けてブレークスルーが課題であった.阪大病院におけるIPF患者(500例)を対象に,臨床情報(診療情報,画像所見)とプロテオミクスによるデータベース構築により,患者層別化のためのAI(subset-binding)を開発し,20種類の新規標的分子を同定するとともに抗線維化作用を確認することができた.本アプローチから見出したIPFのBMを活用した創薬開発が期待される.
 以上,血清エクソソームのプロテオミクスを活用したBM探索から病態解明,創薬開発への取り組みを紹介させて頂く.


<特別講演> ICAP-抗核抗体検査のNew movement-

三森 経世
医療法人 医仁会武田総合病院

 抗核抗体(antinuclear antibody: ANA)は細胞核成分と反応する自己抗体の総称であり,全身性自己免疫疾患である膠原病に広く高頻度に見いだされる代表的な自己抗体である.現在では測定法の進歩により,多くの対応核抗原が同定され,リコンビナント抗原などを用いた疾患特異的自己抗体が測定可能となっているが,ANA検査はなお自己免疫疾患,特に膠原病の診断に最も汎用される検査法である.
 ヒト上咽頭癌由来HEp-2細胞を用いた間接蛍光抗体法はANA測定の基本であり,核・細胞質の不溶性・可溶性成分との反応をすべてカバーし得るので,一次スクリーニングとして適している.ANAでは抗体と反応する核抗原の種類と局在により染色パターンが変化し,対応抗原の推定が可能であり,また染色型と疾患の間には一定の関連性が知られている.
 近年,HEp-2細胞による間接蛍光抗体法で観察される種々の形態学的パターンの表現に関するコンセンサスを形成しプロモートすることを目的とする国際的ワークショップとして,ICAP(International Consensus on Antinuclear Antibody Patterns)が組織され,活動を進めている1).ICAPでは,染色パターンの命名と分類,各パターンの定型的画像の提供,各パターンの対応抗原と臨床的意義の解釈,などを整備してホームページ上で情報を提供し,日本語を含む英語以外の言語への翻訳版もある.染色パターンに関する質問もウェブサイト上で受け付けている.さらに,HEp-2細胞蛍光抗体法の手技のオンライントレーニングがウェブサイトにアップロードされており,登録すれば無料でトレーニングを受けることができる.
 ICAPではHEp-2細胞のANAパターンを,1)細胞の分画(compartment)により,陰性(Negative),核(Nuclear),細胞質(Cytoplasmic),有糸細胞分裂(Mitotic)の4つに大別し,2)染色パターン(Anti-cell pattern: AC)を30種類に分類した(AC-0からAC-29).さらに,これらを3)ルーチンに報告すべき「Competent level」と,より専門的知識としての「Expert level」に分けている2).細胞分裂中期の染色体(metaphase plate)の染色の有無は,AC判別の極めて重要なポイントとなる.また,2019年の改訂で各AC染色パターンの臨床的意義(clinical relevance)が記載された3).AC-3(Centromere),AC-21(AMA),AC-29(TopoI-like)のように的確に判定すれば強い臨床的相関が推定されるものから,Mitotic pattern(AC-25~28)のように臨床的相関の弱いものまでその程度は様々である.
 ICAPの活動はグローバルにも認識されつつあり,ANAパターンはICAP命名法と分類に準拠して報告が行われるようになるものと思われる.


【文献】
1) https://www.anapatterns.org
2) https://www.anapatterns.org/trees-2021.php
3) Damoiseaux J, Andrade LEC, Carballo OG, et al: Ann Rheum Dis. 2019; 78:879-889.