開催日時 | 2022年3月5日(土)14:00〜17:30 (ウェブ配信) 2022年4月5日(火)~2022年10月4日(火)(オンデマンド配信) |
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後援 | 株式会社医学生物学研究所 |
ウェブ視聴 | 無料 |
お問い合わせ | koutaisympo@mbl.co.jp |
渥美 達也 (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
桑名 正隆 (日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
藤本 学 (大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学教室)
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藤本 学 (大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学教室)
(14:05 - 14:15)(14:15 - 16:25)
藤本 学
(大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学教室)
沖山 奈緒子
(東京医科歯科大学 皮膚科)
桑名 正隆
(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
関 守信
(慶應義塾大学医学部 神経内科)
桑名 正隆
(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
永渕 泰雄
(東京大学大学院医学系研究科 免疫疾患機能ゲノム学講座
アレルギー・リウマチ内科)
渥美 達也
(北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
矢冨 裕
(東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻 病態診断医学講座
臨床病態検査医学分野)
桑名 正隆 (日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
炎症性筋疾患(Idiopathic inflammatory myopathies, IIMs)には,皮膚筋炎(Dermatomyositis, DM),抗合成酵素症候群(Anti-synthetase syndrome, ASS),多発性筋炎(Polymyositis, PM),封入体筋炎(Inclusion body myositis, IBM),免疫介在性壊死性筋症(Immune-mediated necrotizing myopathy, IMNM)がある.ASSは抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体で定義される疾患であり,DMでは抗 transcriptional intermediatry factor (TIF)1γ抗体,抗Mi2β抗体,抗melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA5)抗体,抗nuclear matrix protein2 (NXP2)抗体,抗small ubiquitin-like modifier activating enzyme (SAE)抗体が検出される.IMNMs症例からは抗signal recognition particle (SRP)抗体と抗3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase (HMGCR)抗体が同定された.これらの自己抗体を筋炎特異的自己抗体(myositis-specific autoantibodies, MSAs)と呼び,診断の重要なツールとなった.ASSの独立性や,真にPMと言える症例は存在するのかなど議論が残る.EULAR/ACR分類では,IMNMを含むPM,IBM,DM,Amyopathic DM(ADM),小児はJuvenile DMと他の筋炎に分類される.
臨床的に,つまりEULAR/ACR診断分類的に,DMと診断される症例は,抗TIF1γ抗体,抗Mi2β抗体,抗MDA5抗体,抗NXP2抗体,抗SAE抗体,抗ARS抗体陽性例である.DMでは,近位筋優位の筋炎,特異的な皮膚症状,間質性肺炎,内臓悪性腫瘍を,様々な程度で併発する,多彩な症候群である.MSAごとに臨床像がサブグループ分類されるというのは,すでに世界的コンセンサスになってきている.抗ARS抗体陽性例のみ若年患者に占める割合が低く,他は小児でも成人でも発症し得る.筋炎は抗MDA5抗体陽性例ではADMもしくは軽症であり,抗ARS抗体陽性例でもADM,もしくは間質性肺炎(Interstitial lung disease, ILD)のみの症例もいる.他のMSAs陽性例では近位筋から体幹筋の筋炎を発症し,特に抗NXP2抗体陽性例では遠位筋まで及びかつ治療抵抗性である.ILD関連MSAsは抗MDA5抗体と抗ARS抗体で,前者では急速進行性ILDが時に致死的で,後者では慢性経過を辿る.悪性腫瘍関連MSAsは抗TIF1γ抗体,ついで抗NXP2抗体である.
臨床像はMSAsを手掛かりに解明されてきたが,MSAsが病原性か否かは議論の的である.IMNMでは,患者血清中の自己抗体をマウスに移入し,補体依存性の筋炎を再現することが報告された.つまり抗体そのものが病原性を持つと証明された.一方,DMにおいては,演者らがマウスにTIF1γリコンビナント蛋白を免疫してTIF1γに対する自己免疫を成立させたところ,CD8 T細胞依存性の自己免疫性筋炎を発症した.この筋炎はB細胞や抗体に非依存性であった.つまり,抗TIF1γ抗体陽性DMは,IMNMと異なり,TIF1γに対する自己免疫機構のうちでもT細胞が病原性であると示唆している.今後,トランスレーショナル研究にてさらに病態を解明すべき領域である.
がん免疫療法の中心である免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors: ICIs)によって活性化された免疫細胞は全身で様々な免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAEs)を起こすことが報告されている.ICIsによる代表的な神経筋関連有害事象としては自己免疫性脳炎,無菌性髄膜炎,多発神経根炎,重症筋無力症(MG),筋炎などがあり,稀ではあるものの時に重篤化することがあるので適切な診断,管理が求められる.これらの神経筋疾患がirAEsとして発症した場合,臨床像,経過,検査所見,治療法などが通常と異なることがあり注意が必要である.また,これらの疾患で高頻度に検出される各種自己抗体の臨床的重要性もirAEsとしてこれらの疾患が発症した場合は異なる.
ICIsが原因となる自己免疫性脳炎は急性もしくは亜急性に発症し,頭痛,発熱,意識変容,失見当識など多彩な臨床像を呈することがあり,時に臨床診断が難しい.抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体抗体などの神経細胞表面蛋白やシナプスの受容体に対する抗体が検出されることは極めて稀である.一方,傍腫瘍性症候群と関連する抗Ma2抗体,抗Hu抗体が検出されることがある.irAEsとして発症する自己免疫性脳炎と傍腫瘍性症候群の鑑別は難しく,ICIs使用により潜在的に存在していた傍腫瘍性症候群が顕在化する可能性が指摘されている.ICIsによるギランバレー症候群の症例報告が散見される一方,症状の緩徐な進行,症状の再燃といった臨床経過から慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)と診断する方が適切なこともある.抗ガングリオシド抗体(抗GM1,GM2,GalNAc-GD1a抗体)が検出される例もあるが,通常のギランバレー症候群に比べて抗ガングリオシド抗体の臨床的有用性は限定的である.irAEとしての末梢神経障害の特徴を多面的に検討してみるとギランバレー症候群ともCIDPとも異なる部分があり,多発神経根炎(polyradiculoneuropathy)と一括するのが適切のようである.irAEsとしてのMGはICIs投与開始早期に発症し,全身倦怠感,易疲労性,筋痛などの非特異的な症状に始まり,数日で急速に進行する.一般的なMGと比べて球症状やクリーゼの頻度が高く注意が必要である.irAEsとしてのMGでは抗アセチルコリン受容体抗体の陽性率は約50%であり,その値が境界領域で判定に迷うことが多い.irAEsとして起きてくるMGの特徴は多くの症例で筋炎とオーバーラップすることである.irAEsとして起きてくる筋炎は体幹・四肢近位筋優位の筋力低下,筋痛,血清CK高値といった筋炎として一般的な所見に加え,眼瞼下垂や複視といったMGを疑わせる臨床症状をしばしば示すのが特徴である.一般的には筋炎とMGの合併は稀であるが,irAEsとしての筋炎は両方の特徴を示す特異な臨床像を呈し,筋病理所見,免疫学的検討などからも既知の炎症性ミオパチーには分類することができない独立した病型を呈すると考えられる.既知の炎症性筋疾患,皮膚筋炎,傍腫瘍性症候群に関係する各種筋炎関連自己抗体は検出されない一方,抗横紋筋抗体が高頻度で検出され,演者らは診断バイオマーカーになりうると予測している.
次世代シーケンサーなどの技術の進歩によって患者個人のゲノムやトランスクリプトームなどの大規模データの取得が容易になってきた.自己免疫疾患研究においてもその病態理解に貢献するとともに,臨床利用を見据えた展開が進んでいる.患者個人のゲノムデータから計算されるpolygenic risk scoreによって,原理的には0歳児であっても多くの多因子疾患のリスクを評価することが可能である.患者の末梢血,もしくは病変局所のトランスクリプトーム解析によって疾患の状態を評価し,治療を選択する層別化医療が可能となる可能性がある.シングルセルRNAシークエンスやマスサイトメトリー解析によって,自己免疫疾患において重要なperipheral helper T細胞などの免疫細胞のプレーヤーが明らかになってきた.我々は合計400名以上の健常人および自己免疫疾患患者からゲノム及び28種の免疫細胞のトランスクリプトームデータを取得しImmuNexUTを構築した.自己免疫疾患患者の免疫細胞はインターフェロン経路の遺伝子の高発現を認め,炎症性筋疾患患者の中では抗MDA-5抗体陽性者に特徴的だった.また遺伝子多型と遺伝子発現の関連解析であるexpression quantitative trait loci(eQTL)解析によって,各免疫疾患の発症に関わる免疫細胞や遺伝子を明らかにした.本講演では,オミクスデータを用いた自己免疫疾患研究の進展を概説するとともに,その臨床応用の可能性について論じたい.
私は,血液学とくに血栓止血学・血管生物学の研究を進めていく過程で,多機能性細胞としての血小板に興味を持ち,それと密接な関連を有する血小板由来生理活性物質,なかでも生理活性脂質に興味を持って,研究を進めてきました.血小板由来生理活性脂質の代表はトロンボキサンA2(TxA2)であり,サイクロオキシゲナーゼの不活化を通じてその産生を制御するアスピリンが抗血小板薬として広く使用されていることは周知です.私たちは,このTxA2を含むエイコサノイド性の第1世代生理活性脂質に加え,第2世代の生理活性脂質と称されるリゾリン脂質性メディエーターの代表格であるスフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate; S1P)の血小板由来生理活性脂質としての重要性を示し,その後,このS1Pに加え,リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid; LPA),さらにはリゾホスファチジルセリン(lysophosphatidylserine; LysoPS)などへと研究対象を広げてきました.同時に,私たちの研究室では,生理活性脂質の(病態)生理学的意義の探求に加え,それ自身さらにはその産生酵素/運搬体/受容体の臨床検体を用いた測定・解析を通じ,疾病の診断,病態の評価に役立つ新しい疾患バイオマーカーの開発にも力を注いできました.
質量分析法等の解析手段の進歩により,これらリゾリン脂質自体の定量測定は,分子種の違いも含め,再現性高い測定が可能になってきました.しかし,臨床検体を用いた生理活性脂質の測定に際しては,検体採取つまりサンプリングが大きな問題となります.例えば,LPAに関しては,血中において基質リゾホスファチジルコリン(lysophosphatidylcholine; LPC)と産生酵素(リゾホスホリパーセD酵素活性を有する)オートタキシン(autotaxin; ATX)が共存するため,通常の検体処理ですと,採血後にLPAが急上昇し,診断目的のLPA測定は不可能です.私たちは,臨床検体のサンプリング法に関しても詳細な検討を実施し,この過程で, ATXが,肝線維化を反映するバイオマーカーとして臨床的に有用であることを明らかにしました.医師主導の臨床性能試験を実施し,その良好な結果により同測定試薬は薬事承認を受け,現在では,ATXは保険収載項目として日常診療で活用されています.同じように,S1Pに関しても,その運搬体であるアポリポタンパク質M(ApoM)が善玉S1Pの代用マーカーとして臨床検査への導入が期待されています.さらには,LysoPSの産生酵素であるホスファチジルセリン特異的PLA1に関しても,その測定の臨床的意義が明らかになろうとしています.また,血液以外の髄液,尿などの検体では,生理活性脂質そのものの定量の臨床検査医学的応用が期待されるデータが蓄積されています.
本講演においては,リゾリン脂質性メディエーターとその関連タンパク質の測定の意義・臨床応用に関して,(自己免疫疾患も含む)私たちの教室のデータを中心に紹介させていただきます.