開催日時 | 2021年2月20日(土)14:00〜17:30 (ウェブ開催) |
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後援 | 株式会社 医学生物学研究所 |
ウェブ視聴 | 無料 |
お問い合わせ | koutaisympo@mbl.co.jp |
渥美 達也 (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
桑名 正隆 (日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
藤本 学 (大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学教室)
参加ご希望の方は専用サイトよりお申込みください。
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桑名 正隆 (日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
桑名 正隆
(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
鈴木 勝也
(慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科)
桑名 正隆
(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野)
濱口 儒人
(金沢大学医薬保健研究域医学系 皮膚分子病態学)
渥美 達也
(北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
石井 智徳
(東北大学病院 臨床研究推進センター)
渥美 達也 (北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室)
シェーグレン症候群は眼口腔の乾燥症状を主徴とし、しばしば多彩な腺外症状を呈する中高年女性に多くみられる全身性自己免疫疾患である。診断には眼口腔の乾燥所見の評価とともに病変組織における高度なリンパ球の集簇像と血清中の自己抗体の存在が重要な手がかりとなる。本疾患では、多数の自己抗体の存在が報告され、特に血清中の抗SSA、抗SSB抗体の診断における有用性が広く知られている。本疾患では、抗原に起因するT細胞を介したB細胞の異常活性化が生じ、自己反応性B細胞の活性化および唾液腺や涙腺における異所性胚中心を伴う3次リンパ組織形成をきたす機序が想定されている。また、B細胞分化におけるB細胞遺伝子の遺伝子多型や体細胞超変異による偏奇したB細胞受容体の形成によって自己抗体産生が生じる機序も唱えられている。当研究室では、患者にみられる抗SSA、抗SSB、抗セントロメア抗体が、唾液腺炎局所において抗原を起点として産生されていることを、局所B細胞の抗体遺伝子解析に基づく抗体ライブラリーを用いて見出した。また、セントロメア「複合体」に対する反応性、新規自己抗原としてMIS12複合体を始めとする複数の「複合体」を同定し、本疾患における自己抗体産生の一端を明らかにした。本疾患における自己抗体産生、病変形成から症候の顕在化、さらにモノクローナル腫瘍化する長期にわたる分子病態は依然として不明な点が多い。本シンポジウムでは、本疾患における自己抗体の産生機序に焦点を当て概説する。
全身性強皮症(Systemic sclerosis: SSc)および多発性筋炎(Polymyositis: PM)・皮膚筋炎(Dermatomyositis: DM)では複数の疾患特異的自己抗体が同定されている。SSc関連自己抗体として抗トポイソメラーゼI抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体、抗U3RNP抗体、抗Th/To抗体、抗U11/U12RNP抗体、抗eIF2B抗体、抗U1RNP抗体、抗Ku抗体、抗PM-Scl抗体、抗RuvBL1/2抗体、抗セントリオール抗体が報告されている。筋炎特異的自己抗体には、抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗MDA5抗体、抗TIF1抗体、抗NXP-2抗体、抗SAE抗体、抗SRP抗体、抗HMGCR抗体がある。これらの自己抗体は特徴的な臨床像と関連しているため、合併症や予後の推測、治療方針の検討に有用である。
SScあるいはPM/DMを疑った場合、まずはHEp-2細胞を基質とした蛍光抗体間接法で抗核抗体の有無を検討する。蛍光抗体間接法での力価と染色型は自己抗体の推測に役立つ。抗セントロメア抗体と抗セントリオール抗体は特徴的な染色パターンから蛍光抗体間接法で同定できる。抗核抗体が陽性の場合に自己抗体を同定する方法として、ELISA法、二重免疫拡散法、免疫沈降法などがある。ELISA法は簡便で臨床で広く用いられているが、測定できる自己抗体が限られる。本邦で保険承認を取得しているのは、SSc関連自己抗体では抗トポイソメラーゼI抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体、抗U1RNP抗体の4つ、筋炎特異的自己抗体では、抗ARS抗体、抗Jo-1抗体、抗Mi-2抗体、抗MDA5抗体、抗TIF1抗体の5つである。免疫沈降法は信頼性が高いが、手技が煩雑でありアイソトープを用いることから一般的な検査法ではない。近年、ラインブロット法あるいはドットブロット法と呼ばれる複数の自己抗体を同時に測定する検査試薬が開発された。この検査法は簡便であるため特に海外で広く使われるようになっているが、検査試薬の精度は十分に検証されていない。蛍光抗体間接法、ELISA法、二重免疫拡散法、免疫沈降法、ラインブロット法、ドットブロット法のいずれも長所と限界があるため、自己抗体を同定する際には用いる検査法についてその特徴を理解して結果を解釈する必要がある。特に、臨床像と自己抗体が乖離する場合には他の検査法で検討するなど、慎重な対応が求められる。
本講演では、SSc関連自己抗体、筋炎特異的自己抗体の検出について最近の知見を含めて解説する。
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus; SLE)は、最も代表的な自己抗体を産生するタイプの自己免疫疾患である。特に注目されるのは、SLEにおいては非常に多種類の自己抗体が、一つの個体の中で出現することである。自己免疫疾患においては疾患別に特徴的な自己抗体が出現するが、それら自己抗体が本当の意味で病原性を持っているかどうかについてははっきりしないもののほうが多い。その中で、SLEにおいて特異的に出現してくる自己抗体である抗dsDNA抗体は、古くから多くの研究者によって、その病原性が指摘され、特に腎症の発症と密接にかかわる重要な抗体として広く認識されている。こうした病原性の明らかな抗体は、その血清中での発現自体が疾患にとって問題であり、抗体価の上昇が表にあらわれてくる症状と直接的につながるため疾患活動性のマーカーとしても頻用される。一方で、抗dsDNA抗体の中にもさまざまなサブタイプがあることも知られており、それが病原性に影響することも報告されている。たとえば抗体の基本構造にかかわるサブクラスによる違いは、補対結合性などとの関連で病原性に影響を与えるとされている。それ以外にも抗体のCDR領域におけるアミノ酸の一個の変異が抗体の構造の変化をもたらしアビディティ(avidity)に影響するとされる。特に荷電の大きなアミノ酸への変異による、タンパク質のもつカチオン化の作用はSLEに発現する自己抗体の病原性にとって重要であるという報告は多い。つまり、抗dsDNA抗体の抗体値の推移を、適切な治療のための疾患活動性モニタリングに使う場合、そうした視点も必要になる。
活動性を必ずしも反映しない病原性の明らかでない抗体も、診断学的には非常に重要な意味を持つものがある。抗Sm抗体などは、その代表的抗体であり、SLEにおける発現頻度は15-30%と低頻度であるが、特異性が高く分類基準においても基準の一つとして挙げられており、また特に、この抗体陽性患者ではループス腎炎と中枢神経ループスの発症率が高いとされている。多くの自己抗体が報告されているSLEではあるが、診断が必ずしも簡単ではない中枢神経病変など、今後も診断に直接的つながる新たな自己抗体の必要性が存在する。当科においても、全く新しい自己抗体検出法であるSARF法を用いて、新たな自己抗体検出を試みている。
自己免疫性の筋炎は長らく、皮膚筋炎(DM)、多発筋炎(PM)に2分されてきた。1980年代からはこれに中高年が罹患する封入体筋炎(IBM)が加わったが、DMとPMの違いは基本的に皮膚症状の有無で判断されてきた。しかし近年の筋病理および血清学的研究の成果に基づき、自己免疫性筋炎は、DM、抗合成酵素症候群(ASS)、免疫介在性壊死性ミオパチー(IMNM)、IBMに分類されるようになっている。この分類は、病態の違いを反映したものになっており、今後の治療法開発を考える上でも重要である。
DMは、I型インターフェロン(IFN-1)病であるとする疾患概念が定着しつつある。筋病理診断では、IFN-1によって誘導されるミクソウイルス抵抗性蛋白質(MxA)に対する免疫染色が診断的検査として行われる。難治性DM例では、IFN受容体の下流伝達を阻害するJAK阻害薬の有用性を謳う症例報告が相次いでおり、DMが確かにIFN-1病であることを示している。陽性自己抗体毎に臨床所見が異なることが徐々に知られつつあるが、筋病理所見にも差が認められる。
ASSは、臨床的には、筋炎に加えて、慢性間質性肺疾患、機械工の手、多発関節炎、Raynaud現象、発熱などを伴う疾患である。筋病理学的には、perifascicular necrosis、筋周鞘の結合組織断片化、アルカリホスファターゼ活性発現を認める。臨床的に皮膚所見を認めることから、従来ASSはDMと臨床診断されることが多かったが、DMとは異なりMxAの発現を認めない。即ち、ASSはIFN-1病ではない。
皮疹がなく、亜急性に筋力低下を来し、血清CKが高値を示す筋炎は、これまで臨床的にPMと診断されていた。一方PMは、病理学的には、CD8陽性の細胞障害性T細胞が非壊死性線維を攻撃する疾患として定義される。ところが臨床的にPMと診断される例の殆どは、筋線維の壊死と再生を主体としたIMNMの所見を呈する。このことから、IMNMが新たな筋炎のサブタイプとされるようになっている。一方、病理学的にPMと診断される例の殆どは実際にはIBMであり、事実上PMと病理診断される例はなくなっている。IMNMでは、骨格筋の免疫染色でHLA-ABC分子の発現に加えて、筋線維膜上に膜侵襲複合体(MAC)が沈着した筋線維が散見される。IMNM特異的自己抗体として、シグナル認識粒子(SRP)およびヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素(HMGCR)に対する自己抗体が同定されている。患者筋線維膜にはSRPあるいはHMGCR分子が発現しており、そこに自己抗体が反応することで古典経路による補体活性化が生じ、最終的にMACが筋線維膜上に形成されることで筋線維壊死が起こることが示されている。この病態に基づき、現在欧米では補体C5阻害剤を用いた臨床試験が行われている。