多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)は、筋力低下を主徴とする原因不明の炎症性疾患です。筋以外にも多彩な全身の臓器病変を合併することが多く、症状が筋肉及び内臓に留まるものをPM、それに加えて定型的な皮膚症状をともなうものをDMと呼びます。PM/DMでは多様な筋炎特異的自己抗体が現れますが、そのうち最も高頻度な自己抗体がアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetases: ARS)
※に対する自己抗体(抗ARS抗体)です。
抗ARS抗体陽性の患者は総じて「抗合成酵素抗体症候群(Anti-synthetase syndrome:ASS)」あるいは「抗ARS抗体症候群」と呼ばれており
1)、筋症状、レイノー現象、機械工の手などの症状を好発するほか、極めて高い確率で間質性肺炎を併発する、ステロイド反応性が良いが再燃しやすいといった共通した臨床的特徴が認められます
2)-4)。
※ アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)は、アミノ酸とそのアミノ酸に対応したアンチコドンを持つtRNAの3’末端OH基にアミノ酸を結合させ、アミノアシルtRNAの合成を担う酵素です。
ARSは、それぞれのアミノ酸に対応して存在するため、20種類のARSが存在することが分かっており、それぞれのARSは、特有な構造を有しています。
従来、PM/DMの診断に用いられてきた抗Jo-1抗体は抗ARS抗体の1種で、Jo-1抗原はヒスチジルtRNA合成酵素であることが知られています。
本品の臨床性能試験の成績では、抗ARS抗体が陽性の場合、95%の患者が間質性肺炎を合併していました。また、臨床症状として、機械工の手の症状を示す患者が多いことも特徴の一つでした。その他の臨床症状や、選択されていた治療法などでは、抗ARS抗体の有無による有意差は認められませんでした。
抗ARS抗体症候群における筋炎と間質性肺炎の出現時期については、Yoshifujiらによると、筋炎先行が24%、間質性肺炎先行例が32%、同時診断が44%の割合であったと報告されています
4)。
本品は、血清中のアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetases:ARS)に対する自己抗体(抗ARS抗体)のうち、抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体の5種類の自己抗体を検出する試薬です。検出は一括して行われるため、個々の抗ARS抗体についての情報は得られません。
本品は、ELISAにより血清中の抗ARS抗体を検出する試薬です。
抗原としてARSたん白質を固相化したマイクロカップ(ARS感作マイクロカップ)に検体を添加し、抗原・抗体反応(一次反応)をさせます。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG ポリクローナル抗体(ヤギ)(酵素標識抗体)を添加して反応(二次反応)させ、抗原・抗体・酵素標識抗体の複合物を形成させます。再び洗浄後、3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジンと過酸化水素の溶解液(酵素基質液)を添加し、酵素(ペルオキシダーゼ)により発色させます(酵素反応)。反応停止後、吸光度(A450)を測定して、血清中の抗ARS 抗体を検出します。
従来、抗ARS抗体の検査に用いられていたRNA免疫沈降試験との判定の結果は下記の表のとおりでした。
判定一致率は99.8%と、非常に良好な結果でした。
不一致となった1例につきましては、他の複数の方法にて抗EJ抗体の存在が確認されました。