略語集
dsDNA: double stranded DNA(二本鎖DNA)
ssDNA: single stranded DNA(一本鎖DNA)
SLE: systemic lupus erythematosus(全身性エリテマトーデス)
DIL: drug-induced lupus erythematosus(薬剤起因性ループス)
TNF: tumor necrosis factor(腫瘍壊死因子)
RIA: radioimmunoassay(ラジオイムノアッセイ)
ELISA: enzyme-linked immuno sorbent assay(酵素免疫測定法)
CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay(化学発光酵素免疫測定法)
抗DNA抗体はDNAに対する自己抗体であり、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)で高頻度、特異的に検出されます。抗DNA抗体には大きく分けると抗dsDNA(double stranded DNA)抗体と抗ssDNA(single stranded DNA)抗体の2種類があります。抗dsDNA抗体の対応抗原は①dsDNAの固有の構造または②糖・リン酸の骨格構造であり、抗ssDNA抗体の対応抗原は②糖・リン酸の骨格構造と③塩基であることが知られています[1]。
•SLE
2020年に日本リウマチ学会が発表したSLEの診療ガイドラインでは、1997年改訂1987年米国リウマチ学会(american college of rheumatology: ACR)分類基準または2012年のSystematic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)の分類基準に従いSLEを診断します。続いて、疾患活動性を評価して治療を選択します[2]。ACRおよびSLICC双方の分類基準に抗dsDNA抗体が検査項目として採用されています[3, 4]。また、SLEの疾患活動性の評価指針として頻用されるSystemic Lupus Erythematosus Disease Activity Index 2000(SLEDAI-2K)では、評価項目の1つとして抗DNA抗体の上昇が採用されています[5]。
抗ssDNA抗体の測定は上記のSLEの診療ガイドラインには掲載されていませんが、SLEでの臨床的有用性が示されています。IgGクラス抗ssDNA抗体は活動期のSLEにおいて有意に高値を示すことや疾患活動性に応じて推移することが報告されています[1, 6, 7, 8]。またSLE患者における再燃に際してはIgGクラス抗ssDNA抗体が上昇するため、経時的にIgGクラス抗ssDNA抗体を測定することは再燃の予知において有用であることが報告されています[7]。
•限局性強皮症
限局性強皮症において、抗ssDNA抗体陽性は重篤な病態と相関するとされます[9]。限局性強皮症は、頭部、手足、体幹の皮膚に斑状または帯状の炎症と硬化を生じる疾患です。2016年に日本皮膚科学会が発表した限局性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドラインでは、抗ssDNA抗体は本症の約50%で陽性となり、疾患活動性と抗体価が相関する場合が多いため、本症の疾患活動性のマーカーとして参考にすることを推奨しています[10]。
•その他の疾患
抗ssDNA抗体は関節リウマチ、シェーグレン症候群、混合性結合組織病、全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎などの疾患でも陽性になる場合があることが報告されています[1, 12]。
「抗ssDNA抗体の関連疾患」に記載のとおり、抗ssDNA抗体測定はSLEにおいて臨床的有用性が示されています。
従来、ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay: RIA)や酵素免疫測定法(enzyme-linked immuno sorbent assay: ELISA)によりIgGクラス抗ssDNA抗体が活動期のSLEで有意に高値を示すこと、疾患活動性に応じて推移することが示されてきました[1, 6, 7, 8]。化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)によるIgGクラス抗ssDNA抗体測定についてもELISA法と同様に経過観察への有用性が示唆されています。また、CLEIAの測定値の変動はELISAよりも大きいため、患者の病態把握が容易になると考えられています[12]。
SLE患者で抗ssDNA抗体のみ陽性の例も報告があります。青塚らによると、活動性のSLEにおいて、固相RIA法によりIgGクラス抗ssDNA抗体が陽性、抗dsDNA抗体が陰性であった一例の症例報告があります[6]。斎藤らによると、未治療膜性ループス腎炎患者9例中4例において、ELISA法でIgGクラス抗dsDNA抗体陰性、IgGクラス抗ssDNA抗体陽性であったことが報告されています[8]。
「抗ssDNA抗体の関連疾患」記載のとおり、抗ssDNA抗体はSLE以外の疾患においても陽性になることがあります。
また、薬剤誘発性ループス(drug-induced lupus erythematosus: DIL)の可能性も考えられます。DILは薬剤が誘因となって発症するループス様疾患です。TNF阻害薬の有害事象として報告されるDILでは、抗核抗体や抗dsDNA抗体が出現するとされています[13]。このとき抗dsDNA抗体だけでなく、抗ssDNA抗体が陽性となる例も報告されています[14, 15]。TNF阻害薬は炎症性サイトカインであるTNFをターゲットにした分子標的薬・生物学的製剤です。関節リウマチやベーチェット病、クローン病、潰瘍性大腸炎、尋常性乾癬などの自己免疫疾患の治療薬として用いられます。
•化学発光酵素免疫測定法:ステイシア試薬
(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)
検出に化学発光を用いる酵素免疫測定法です。抗原が結合した磁性粒子と検体を反応させると抗原-抗体反応が生じます。この磁性粒子を集磁・洗浄した後、酵素標識抗体を加えると、抗原結合磁性粒子-抗体-酵素標識抗体の複合体が形成されます。続いて集磁・洗浄し未反応物を除去してから、基質液を加えると、基質は複合体中の酵素によって加水分解され発光します。この発光をカウントすることによって検体中の抗原特異的自己抗体濃度を測定します。溶液中に浮遊する抗原結合磁性粒子と検体を混合して反応させることで、短時間で効率的な自己抗体の検出が可能です。
ステイシア MEBLux™テスト ssDNAでは、λファージ由来のssDNA抗原を結合した磁性粒子を用います。
•測定範囲
2.0~800.0 AU/mL
•基準値
陽性:>25.0 AU/mL
陰性:≦25.0 AU/mL
ssDNAにはWHOの標準品がありませんので、弊社独自に単位を設定しAU/mLとしました。
ステイシア試薬は以下の構成で設計しています。試薬の設計は各社で異なり、この違いから測定結果の乖離が生じる可能性があります。
•ステイシア試薬の設計
ステイシア MEBLux™テスト ssDNA | |
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測定原理 | CLEIA |
抗原由来 | λファージ由来ssDNA |
検出用抗体 | 抗ヒトIgGポリクローナル抗体(ヤギ) |
検出対象抗体 | ヒトIgG |
標識物質 | アルカリホスファターゼ |
検出用基質 | 2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム (慣用名:CDP-Star) |
検出対象 | 発光 |
最終更新日:2021年9月