略語集
PBC: primary biliary cholangitis(原発性胆汁性胆管炎)
AMA: antimitochondrial antibody(抗ミトコンドリア抗体)
PDC-E2: E2 component of pyruvate dehydrogenase complex
(ピルビン酸脱水素酵素複合体のE2コンポーネント)
BCOADC-E2: E2 component of branched chain 2-oxo-acid dehydrogenase complex
(分岐鎖アミノ酸脱水素酵素複合体のE2コンポーネント)
OGDC-E2: E2 component of 2-oxoglutarate dehydrogenase complex
(オキソグルタル酸脱水素酵素複合体のE2コンポーネント)
CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay(化学発光酵素免疫測定法)
FEIA: fluorescence enzyme immunoassay(蛍光酵素免疫測定法)
IIF: indirect immunofluorescence(間接蛍光抗体法)
抗ミトコンドリアM2抗体とはミトコンドリアのM2抗原に対する自己抗体であり、原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis: PBC)で特異度高く検出されます。
1985年にBergらは抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibody: AMA)の対応抗原をM1からM9の亜型に分類し、そのうちM2抗原がPBCに対して高い疾患特異性を持つことを見出しました[1]。その後、抗ミトコンドリアM2抗体の主要対応抗原がM2分画の大部分を占めるピルビン酸脱水素酵素複合体のE2コンポーネント(E2 component of pyruvate dehydrogenase complex: PDC-E2)であることが報告されました[2]。更に、2-acid dehydrogenase complexに属する分岐鎖アミノ酸脱水素酵素複合体のE2コンポーネント(E2 component of branched chain 2-oxo-acid dehydrogenase complex: BCOADC-E2)、オキソグルタル酸脱水素酵素のE2コンポーネント(E2 component of 2-oxoglutarate dehydrogenase complex: OGDC-E2)もPBCに特異的な抗M2抗体の対応抗原であることが報告されました[3, 4]。PBC患者の血中には、これらのM2抗原に対する自己抗体が単独、もしくは複数で存在することが明らかになっています。
AMAはPBC症例の90%以上に検出され、診断的意義が高いことが知られます[5]。
AMAの健常者集団における陽性率は1%以下です[6]。
AMAは自己免疫性肝炎でも稀に認められます[7]。
•PBCの特徴
原発性胆汁性胆管炎(Primary biliary cholangitis: PBC)は慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患です。肝内小葉間の小胆管が免疫学的な機序で破壊され(胆管炎)、胆汁が肝臓内にうっ滞して黄疸が生じます。典型的な症例では、次第に肝細胞が破壊され肝不全まで進行します。皮膚のかゆみ、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく自覚症状を有する場合は症候性PBCと呼び、これらの症状を欠く場合は無症候性PBCと呼ばれます。PBCの発症機序は不明ですが、自己免疫学的機序が関わっていると考えられています。国内の患者数は5~6万人と推定されています[5]。
•PBCの診断
PBCの診断は「原発性胆汁性胆管炎の診断基準(平成27年度)」に基づいて行われます。AMAはPBC患者の90%以上で検出される疾患特異性の高い自己抗体であり、診断基準の3項目の2つにAMAに関する記載があります[5]。AMAの抗体価は加療や病状を反映せず、PBCの疾患活動性マーカーにはならないとされています[6]。
本試薬のPBCに対する診断性能を評価した臨床性能試験の結果を説明します。PBC症例79例、自己免疫性肝炎症例62例、C型肝炎症例91例、B型肝炎症例11例、非アルコール性脂肪性肝炎症例3例、原発性硬化性胆管炎症例23例、非ABC型肝炎症例14例、その他肝疾患症例5例の合計288例を収集し、本試薬を用いて測定しました。結果、PBCに対する本試薬の感度は89.9%(71/79)、特異度は97.6%(204/209)、正確度は95.5%(275/288)であり、その高い診断性能が示されました[8]。
•PBCの診断
AMAはPBC患者の90%以上で検出される疾患特異性の高い自己抗体であり、診断基準の3項目の2つにAMAに関する記載があります[5]。ステイシア MEBLux™テスト ミトコンドリアM2の臨床性能試験では、PBCの診断において感度89.9%、特異度97.6%と高い性能を示しました[8]。
より詳しい解説は「PBCと抗ミトコンドリアM2抗体」をご参照ください。
薬剤の使用によって抗M2抗体の発現が誘導されるという報告はありません。
•化学発光酵素免疫測定法:ステイシア試薬
(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)
検出に化学発光を用いる酵素免疫測定法です。抗原が結合した磁性粒子と検体を反応させると抗原-抗体反応が生じます。この磁性粒子を集磁・洗浄した後、酵素標識抗体を加えると、抗原結合磁性粒子-抗体-酵素標識抗体の複合体が形成されます。続いて集磁・洗浄し未反応物を除去してから、基質液を加えると、基質は複合体中の酵素によって加水分解され発光します。この発光をカウントすることによって検体中の抗原特異的自己抗体濃度を測定します。溶液中に浮遊する抗原結合磁性粒子と検体を混合して反応させることで、短時間で効率的な自己抗体の検出が可能です。
ステイシア MEBLux™テスト ミトコンドリアM2では、PDC-E2、BCOADC-E2、OGDC-E2の3種のリコンビナントM2抗原を用います。
•測定範囲
Index 1.5~
•基準値
陽性:Index≧7.0
陰性:Index<7.0
本試薬では、発光検出器で各検体の発光カウントを測定し、ステイシア MEBLux™テスト用ミトコンドリアM2抗体標準液1、2を用いて作成した標準曲線に基づいて、Index値を算出します。このIndex値に基づき、抗M2抗体の有無を検出します。
抗M2抗体はPBCの診断に非常に重要な自己抗体でありその陽陰性が診断結果に影響します。しかしながら、その抗体価は病状を反映しないとされます。よって、本試薬では多点校正による濃度算出では無く、2点校正のIndex値を採用しています。
ステイシア試薬は以下の構成で設計しています。試薬の設計は各社で異なり、この違いから測定結果の乖離が生じる可能性があります。
•ステイシア試薬の設計
ステイシア MEBLux™テスト ミトコンドリアM2 | |
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測定原理 | CLEIA |
抗原由来 | リコンビナントM2抗原(PDC-E2, BCOADC-E2, OGDC-E2) |
検出用抗体 | 抗ヒトイムノグロブリンポリクローナル抗体(ヤギ) |
検出対象抗体 | ヒトIgG/IgM/IgA |
標識物質 | アルカリホスファターゼ |
検出用基質 | 2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム (慣用名:CDP-Star) |
検出対象 | 発光 |
•IgA型AMA
試薬設計の違いの中でも、特に検出対象の自己抗体型は各社試薬で異なり、乖離の原因となる可能性があります。ステイシア試薬ではヒトIgG/IgM/IgAを検出します。
PBCにおけるIgA型AMAの存在に関してはいくつかの報告があります。IF法とELISA法で抗M2抗体が陰性のPBC症例をIgG/IgM/IgA型ごとにウエスタンブロットで解析した研究では、13%がIgA型抗M2抗体のみ陽性であり、この陽性群は早期PBCであったと報告されています[9]。また、PBC症例103例を収集し、IgG/IgA型の抗M2抗体の存在を解析した研究では、47.6%がIgA型抗M2抗体陽性であり、その内2例がIgA型のみ陽性でした[10]。
•ステイシア試薬とフルオロ AID-1 テストの相関
間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence: IIF)を原理としたフルオロ AID-1 テストを用いて検査した陽性検体211例、および陰性検体265例を用い、フルオロ AID-1 テストとステイシア試薬の相関を解析しました。結果、陽性一致率98.1%、陰性一致率97.4%、判定一致率97.7%と良好な相関を示しました[8]。
•ステイシア試薬とフルオロ AID-1 テストの乖離要因
PBC患者に認められるAMAはほとんどがM2抗原を認識しますが、M2以外の抗原を認識するAMAも存在します。ラット胃・腎組織を基質として用いるフルオロ AID-1 テストはステイシア試薬より多くの抗原を含み、抗M2抗体以外のAMAを検出する場合があります。このような使用抗原の違いにより、両試薬間の乖離は生じえます。
最終更新日:2021年7月