ステイシア MEBLux™テスト dsDNAと他社試薬の乖離要因
ステイシア MEBLux™テスト dsDNAとフルオロ HEPANA-2 テスト(IIF法)
略語集
dsDNA: double-stranded deoxyribonucleic acid(二本鎖デオキシリボ核酸)
ssDNA: single-stranded deoxyribonucleic acid(一本鎖デオキシリボ核酸)
SLE: systemic lupus erythematosus(全身性エリテマトーデス)
MCTD: mixed connective tissue disease(混合性結合組織病)
CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay(化学発光酵素免疫測定法)
ELISA: enzyme-linked immune sorbent assay
RIA: radioimmunoassay(ラジオイムノアッセイ)
IIF: indirect immunofluorescence(間接蛍光抗体法)
ACR: american college of rheumatology(米国リウマチ学会)
SLICC: systemic lupus international collaborating clinics
SLEDAI-2K: systemic lupus erythematosus disease activity index 2000
抗dsDNA抗体とは二本鎖デオキシリボ核酸(double-stranded deoxyribonucleic acid: dsDNA)に対する抗体の総称です。抗dsDNA抗体は、細胞の核成分に対して作られる自己抗体である抗核抗体の一種です。
抗dsDNA抗体は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)の代表的な自己抗体であり、SLEの診断に有用です。また、抗dsDNA抗体価はSLEおよびループス腎炎の疾患活動性と良く相関し、病態のモニタリングにも利用されます[1]。
•SLEの特徴
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)は、皮膚、関節、中枢神経系および腎臓を含む多くの臓器が障害され、時に死に至る全身性の自己免疫疾患です。20世紀後半以降の診断と治療技術の進化により、SLE患者の10年後生存率は90%以上まで向上しました。SLEでは抗dsDNA抗体や抗Sm抗体に代表される複数の自己抗体が認められ、これらの自己抗体による免疫複合体が組織に沈着して全身性の炎症が生じます[2]。SLEは妊娠可能年齢の女性に好発し、発症率は人種や地域によって大きく異なります。日本での10万人当たりの有病数は3.7~37.7人と報告されています[3]。
•SLEの診断と抗dsDNA抗体
2020年に日本リウマチ学会が発表したSLEの診療ガイドラインでは、1997年改訂1987年米国リウマチ学会(american college of rheumatology: ACR)分類基準または2012年のSystematic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)の分類基準に従いSLEを診断します。続いて、疾患活動性を評価して治療を選択します[1]。ACRおよびSLICC双方の分類基準に抗dsDNA抗体が検査項目として採用されています[4, 5]。また、SLEの疾患活動性の評価指針として頻用されるSystemic Lupus Erythematosus Disease Activity Index 2000(SLEDAI-2K)では、評価項目の1つとして抗DNA抗体の上昇が採用されています[6]。
•SLEにおける抗dsDNA抗体の性状
DNAに対する自己抗体はその反応性から3群に分類され、それぞれ異なる疾患関連性を示すと考えられています。1つ目は、DNAの塩基に特異的に反応する抗体群です。これらは典型的な抗一本鎖DNA(single-stranded deoxyribonucleic acid: ssDNA)抗体です。これらの抗体は、SLE、関節リウマチ、混合性結合組織病、全身性強皮症などの広範な全身性自己免疫疾患で認められます。2つ目の抗体群は、DNA分子の糖-リン酸骨格に対して反応します。この群には、抗ssDNA抗体と抗dsDNA抗体の両方が含まれます。3つ目の抗体群は二本鎖DNAの二重らせん構造を認識します。この群には抗dsDNA抗体のみが含まれます。2つ目と3つ目の群に含まれる抗dsDNA抗体がSLE特異的であると考えられています[7]。
抗dsDNA抗体の親和性の違いも疾患関連性に大きく影響します。高親和性の抗dsDNA抗体が主にSLEに対して特異的であり、疾患活動性を反映し、ループス腎炎と関連すると考えられています。対して、低親和性の抗dsDNA抗体はSLEに対する特異性が低く、疾患活動性を反映せず、腎障害に関連しないと考えられています[7, 8]。
SLEの診断における、ステイシア MEBLux™テスト dsDNAの性能を検討した文献2報を紹介します。
西山らは診断の確定したSLE患者136例、関節リウマチ患者310例、全身性強皮症患者62例、多発性筋炎/皮膚筋炎患者33例、混合性結合組織病患者72例、原発性シェーグレン症候群患者94例の計707例をステイシア MEBLux™テスト dsDNAを用いて測定しました。結果、SLEに対する感度は40.4%、特異度は92.5%でした。また、診断が確定した活動性SLE患者5例について、抗dsDNA抗体測定のゴールドスタンダードと見なされるラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay: RIA)とステイシア試薬を用いて経時的な測定を行いました。いずれの症例においても抗体価の推移は両手法間で良く相関し、ステイシア試薬のSLE経過観察における有用性が示唆されました[9]。
礒田らは診断の確定したSLE患者61例、原発性シェーグレン症候群患者19例、関節リウマチ患者26例、全身性強皮症患者24例、多発性筋炎/皮膚筋炎患者17例、血管炎患者15例、その他の膠原病類似疾患等16例、健常人28例の計206例をステイシア MEBLux™テスト dsDNAを用いて測定しました。結果、SLEに対する感度は62.3%、特異度は95.9%でした。また、診断が確定した活動性SLE患者3例について、ステイシア試薬の測定値の推移と活動性の指標であるC3、アルブミン、ヘモグロビン、尿蛋白とを比較しました。いずれの症例においても、ステイシア試薬の測定値は各活動性指標と逆相関し、SLEの経過観察への有用性が示唆されました[10]。
•混合性結合組織病
混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)の3-20%で抗dsDNA抗体が陽性になると報告されています[11]。厚生労働省MCTD分科会が発表したMCTDの2019年改訂診断基準では、SLEに特徴的な抗dsDNA抗体が陽性の場合にはMCTDの診断を慎重に行う必要があると付記しています。また、抗dsDNA抗体はMCTDの予後と臓器障害に関連すると考えられています[12]。
•自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎患者の30%までが抗dsDNA抗体陽性になると報告されています[13]。抗dsDNA抗体は自己免疫性肝炎の予後予測因子としての意義が示唆されています[14]。
•薬剤誘発性ループス
薬剤誘発性ループスは特定薬剤の投与の副作用により、SLE様症状を呈する疾患です。SLE症例全体の10-15%が薬剤誘発性ループスであるとされ、その原因薬剤は90種以上が知られています。SLEでは多くの症例で抗dsDNA抗体が陽性になりますが、薬剤誘発性ループスでの陽性率は低いとされています。しかしながら、TNFα阻害薬の投与により生じる薬剤誘導性ループスでは抗dsDNA抗体陽性率が高く、90%程度の患者が陽性になると報告されています[15, 16]。
•化学発光酵素免疫測定法:ステイシア試薬
(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)
検出に化学発光を用いる酵素免疫測定法です。抗原が結合した磁性粒子と検体を反応させると抗原-抗体反応が生じます。この磁性粒子を集磁・洗浄した後、酵素標識抗体を加えると、抗原結合磁性粒子-抗体-酵素標識抗体の複合体が形成されます。続いて集磁・洗浄し未反応物を除去してから、基質液を加えると、基質は複合体中の酵素によって加水分解され発光します。この発光をカウントすることによって検体中の抗原特異的自己抗体濃度を測定します。溶液中に浮遊する抗原結合磁性粒子と検体を混合して反応させることで、短時間で効率的な自己抗体の検出が可能です。
ステイシア MEBLux™テスト dsDNAでは、λファージ由来のdsDNA抗原を用います。
•測定範囲
1.2 IU/mL~
•基準値
陽性:>12.0 IU/mL
陰性:≦12.0 IU/mL
ステイシア試薬は以下の構成で設計しています。試薬の設計は各社で異なり、この違いから測定結果の乖離が生じる可能性があります。
•ステイシア試薬の設計
ステイシア MEBLux™テスト dsDNA | |
---|---|
測定原理 | CLEIA |
抗原由来 | λファージ由来のdsDNA |
検出用抗体 | 抗ヒトIgGポリクローナル抗体(ヤギ) |
検出対象抗体 | ヒトIgG |
標識物質 | アルカリホスファターゼ |
検出用基質 | 2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム (慣用名:CDP-Star) |
検出対象 | 発光 |
•ステイシア試薬とフルオロ HEPANA-2 テストの相関
ステイシア試薬とフルオロ HEPANA-2 テストにおいて、判定および力価は必ずしも相関しません。これは手法間の測定原理の違い、抗原の違いなどによります。詳しくは「ステイシア試薬とフルオロ HEPANA-2 テストの乖離要因」をご参照下さい。
•ステイシア試薬とフルオロ HEPANA-2 テストの乖離要因
2試薬間の乖離は使用抗原の違い、測定原理の違いに由来すると考えられます。ステイシア MEBLux™テスト dsDNAは精製した二本鎖DNAを抗原として用い、測定原理をCLEIA法として抗dsDNA抗体を検出します。対して、フルオロ HEPANA-2 テストはヒト喉頭がんから株化されたHEp-2培養細胞を核材として用い、測定原理を間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence: IIF)として抗dsDNA抗体を含む抗核抗体を検出します。HEp-2 IIFではHEp-2細胞に存在するあらゆる種類の抗原が検出対象となり、特定の抗原を用いるステイシア試薬より多くの自己抗体を検出します。これらの違いにより、結果の乖離が生じえます。
薬剤誘発性ループスには特有の乖離要因が考えられます。SLEにおけるHEp-2 IIFによる抗核抗体の陽性率は90-100%、抗dsDNA抗体の陽性率は50-80%であり、両手法間の相関は高いです。対して薬剤誘発性ループスでは、HEp-2 IIFによる抗核抗体の陽性率は90-100%とSLEと同様に高いですが、抗dsDNA抗体の陽性率は非常に低く、両手法間の乖離がSLEより多くなります。これは薬剤誘発性ループスで生じる抗核抗体の多くがdsDNAに対してでなく、ヒストンに対して作られるためです。抗ヒストン抗体の陽性率はSLEで60-70%、薬剤誘導性ループスでは90-95%と報告されています[16]。
•ステイシア試薬とMESACUP試薬の相関
ステイシア MEBLux™テスト dsDNAと、ELISA(enzyme-linked immune sorbent assay)法を原理としたMESACUP™ DNA-II テスト「ds」の相関を検討した文献2報を紹介します。
西山らは診断の確定したSLE患者136例、関節リウマチ患者310例、全身性強皮症患者62例、多発性筋炎/皮膚筋炎患者33例、混合性結合組織病患者72例、原発性シェーグレン症候群患者94例の計707例を、ステイシア試薬およびMESACUP試薬を用いて測定し、両試薬間の相関性を検討しました。結果、相関係数r=0.774,回帰式y=0.47x+4.19となり、両試薬間の相関は比較的低いことが示されました。また、陽性一致率は42.5%、陰性一致率は92.0%、全体一致率は83.6%となり、ステイシア試薬で陰性化する例が多く認められました[9]。
礒田らは診断の確定したSLE患者61例、原発性シェーグレン症候群患者19例、関節リウマチ患者26例、全身性強皮症患者24例、多発性筋炎/皮膚筋炎患者17例、血管炎患者15例、その他の膠原病類似疾患等16例、健常人28例の計206例をステイシア試薬およびMESACUP試薬を用いて測定し、両試薬間の相関性を検討しました。MESACUP試薬の測定上限400 IU/mL以内の検体200例の相関を解析し、相関係数r=0.578、回帰式y=0.26x+6.78となり、両試薬間の相関は比較的低いことが示されました。また、陽性一致率65.1%、陰性一致率は97.9%、全体一致率は87.9%、となり、ステイシア試薬で陰性化する傾向が認められました[10]。
•ステイシア試薬とMESACUP試薬の乖離要因
両試薬間の乖離要因の一つとして、洗浄液(BF洗浄液)の塩濃度の違いが挙げられます。抗dsDNA抗体の検出系では、高塩濃度の反応液を用いることで高親和性の抗体を検出できると考えられています。また、高親和性の抗dsDNA抗体が主にSLEに対して特異的であり、疾患活動性を反映し、ループス腎炎と関連すると考えられています[7, 8, 17]。ステイシア試薬のBF洗浄液はMESACUP試薬の洗浄液に比べ塩濃度が高く、抗原との親和性が低い自己抗体が洗い流されます。そのため、ステイシア試薬では親和性が高い抗体を検出し、親和性が低い抗体が低値化、陰性化する傾向があります[9, 10]。
ステイシア MEBLux™テスト dsDNAとRIA試薬の感度、特異度といった全般的な性能を比較したデータはありません。例数は少ないですが、両試薬のSLEの経過観察における性能を比較した報告があります。西村らは診断が確定した活動性SLE患者5例について、ステイシア試薬とRIA試薬を用いて経時的な測定を行いました。いずれの症例においても抗体価の推移は両試薬間で良く相関し、ステイシア試薬のSLE経過観察における有用性が示唆されました[9]。
両試薬は測定原理と検出対象の免疫グロブリンクラスが異なり、試薬間の相関に影響します。ステイシア試薬はCLEIA法を原理とし、IgGクラスの免疫グロブリンのみを検出します。RIA法は免疫沈降法を原理とし、全てのクラスの免疫グロブリンを検出します。
最終更新日:2021年9月