ステイシア MEBLux™テスト CENP-Bの抗原は何か?
ステイシア MEBLux™テストとMESACUP™-2の相関
略語集
ACA: anti-centromere antibody(抗セントロメア抗体)
SSc: systemic sclerosis(全身性強皮症)
dcSSc: diffuse cutaneous SSc (びまん皮膚硬化型全身性強皮症)
lcSSc: limited cutaneous SSc(限局皮膚硬化型全身性強皮症)
CENP: centromere protein
PBC: primary biliary cholangitis(原発性胆汁性胆管炎)
PAH: pulmonary arterial hypertension(肺動脈性肺高血圧症)
AMA: anti-mitochondrial antibody(抗ミトコンドリア抗体)
ELISA: enzyme-linked immuno sorbent assay(酵素免疫測定法)
IIF: indirect immunofluorescence(間接蛍光抗体法)
CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay(化学発光酵素免疫測定法)
FEIA: fluorescence enzyme immunoassay(蛍光酵素免疫測定法)
抗セントロメア抗体(anti-centromere antibody: ACA)は、染色体セントロメア(キネトコア)に存在する抗原と反応する抗核抗体であり、1980年にMoroiらによって初めて報告されました[1]。ACAは全身性強皮症(systemic sclerosis: SSc)の病型分類において有用とされています。ACAの対応抗原はセントロメア関連タンパクであるCENP-A、CENP-B、CENP-Cとされています。このうちCENP-Bが主要な自己抗原です[2]。
ACAはHEp-2細胞を核材とした間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence: IIF)を用いてセントロメア型(Discrete speckled型)として検出されてきましたが、近年ではセントロメア関連タンパクを固相化した酵素免疫測定法(enzyme-linked immuno sorbent Assay: ELISA)や化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)が使用されています。
•SScの診断
ACA測定はSScの病型分類において有意義とされており[3]、SScの診断基準に記載されています[4]。ACAはSScの一病型として把握される限局皮膚硬化型全身性強皮症(limited cutaneous SSc: lcSSc)において出現する抗核抗体とされ、比較的経過の良好な病型に高率に検出されます。
•SScの予後予測
全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン[4]には以下の記載があり、ACAはSScにおいて、今後の病態の予測に寄与する可能性が示唆されています。
「lcSScで今後広範囲の皮膚硬化をきたすかどうかは、強皮症特異抗核抗体も参考にすべきである[5, 6]。抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体が陽性である場合や抗U3RNP抗体の存在が疑われる場合には、びまん皮膚硬化型全身性強皮症(diffuse cutaneous SSc: dcSSc)に進展する可能性が高い。一方、抗セントロメア抗体陽性の場合には lcSScのままで皮膚硬化は進行しない可能性が高い。」
•PBCの予後予測
ACAは原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis: PBC)症例の約20-30%で陽性となるといわれています[7]。診断基準には含まれていませんが、抗セントロメア抗体陽性のPBCは門脈圧亢進症が生じやすいが生命予後は悪くないと報告されています[8]。
•全身性強皮症
SScは皮膚および各種臓器の線維化と血管内皮細胞増生による血流循環障害を特徴とする疾患です。硬化の程度や進行の経過は個々の患者により多様であり、この観点から強皮症は大きく2つに分類されます。発症から5~6年以内は進行を続ける「びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dsSSc)」と、進行がほとんど見られない軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症(lcSSc)」に分けられます。
強皮症特異的抗核抗体は、lcSScにおいて今後広範囲の皮膚硬化をきたすかどうかの参考になると考えられています。抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体が陽性の場合、抗U3RNP抗体の存在が疑われる場合には、dsSScに進展する可能性が高いと考えられます。抗セントロメア抗体陽性の場合には皮膚硬化は進行しない可能性が高いとされています。
抗セントロメア抗体陽性例のほとんどはlcSScで、発症早期に重篤な臓器障害を呈することは稀ですが、10年以上の経過を経て、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)や心筋拡張障害を併発することがあります[4]。
•原発性胆汁性胆管炎
PBCは肝臓内の小型胆管が自己免疫機序により破壊される疾患です。胆管の破壊により胆汁がうっ滞して黄疸が生じます。典型的な症例では、次第に肝細胞が破壊され肝不全まで進行します。PBC患者の血液中には高確率で抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial antibody: AMA)という自己抗体が存在します。
ACAは約20-30%のPBC症例で陽性となるといわれています。陽性例の生命予後は良いが、黄疸出現以前に門脈圧亢進症を呈する症例に高率に陽性化することが示されています[8]。
SScにおいて、ACA以外に指標となる検査項目には以下があります。
•自己抗体検査
自己抗体 | 特徴 | 診断基準 |
---|---|---|
抗Scl-70抗体 (抗トポイソメラーゼ抗体) |
びまん皮膚硬化型に特異的。 手指潰瘍。 間質性肺疾患と相関。 |
◎ |
抗RNAポリメラーゼIII抗体 | SScの約20%に出現。 びまん皮膚硬化型に特異的。 腎クリーゼと相関。 |
◎ |
抗核小体抗体 | 頻度は低いが、比較的SScに特異的。 一部レイノー現象のみを有する症例でも検出される。 |
|
抗RNP抗体 (抗U1-RNP抗体) |
SScの15%程度に検出される。 特にlcSScに認められる。 |
•その他の検査
シスタチンCを用いたeGFRの推算(腎病変の重症度分類)
原発性胆汁性胆管炎において、ACA以外に指標となる検査項目には以下があります。
•自己抗体検査
自己抗体 | 特徴 | 診断基準 |
---|---|---|
抗ミトコンドリア抗体 | PBCで高率(90%以上)に出現 | ◎ |
抗核抗体 | 抗核抗体陽性PBCの染色型はセントロメア型、核膜型が多い |
•その他の検査
・血清胆道系酵素(ALP、γGTP)の上昇
・IgMの上昇を認めることが多い
薬剤の使用によってACAの発現が誘導されるという報告はありません。
また、ACAの陽陰性によって使用の可否が判断される薬剤も報告されていません。
SScやPBCにおいてACAの病原性は示されていません。
SSc、PBC以外でACAが陽性となる疾患として、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、混合性結合組織病などが報告されています[9, 10, 11]。
なお、これらの疾患の診断基準等にはACAは含まれていません。
ステイシア MEBLux™テスト CENP-BではリコンビナントのCENP-B抗原を用いています。ACAの対応抗原はセントロメア関連タンパクであるCENP-A、CENP-B、CENP-Cとされています。このうち主要な自己抗原とされるCENP-Bを抗原として採用しました。
•化学発光酵素免疫測定法:ステイシア試薬
(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)
検出に化学発光を用いる酵素免疫測定法です。抗原が結合した磁性粒子と検体を反応させると抗原-抗体反応が生じます。この磁性粒子を集磁・洗浄した後、酵素標識抗体を加えると、抗原結合磁性粒子-抗体-酵素標識抗体の複合体が形成されます。続いて集磁・洗浄し未反応物を除去してから、基質液を加えると、基質は複合体中の酵素によって加水分解され発光します。この発光をカウントすることによって検体中の抗原特異的自己抗体濃度を測定します。溶液中に浮遊する抗原結合磁性粒子と検体を混合して反応させることで、短時間で効率的な自己抗体の検出が可能です。
ステイシア MEBLux™テスト CENP-BではCENP-Bのリコンビナント抗原を用います。
•測定範囲
2.0~500.0 U/mL
•基準値
陽性:≧10.0 U/mL
陰性:<10.0 U/mL
•ステイシア試薬の基準値の設定根拠
基準値についてはELISA法の既承認品であるMESACUP™-2テスト CENP-Bで用いている自社較正用基準物質を用い、MESACUP™-2のカットオフ値を基にしてステイシア試薬の基準値10.0 U/mLとしました。
ステイシアCENP-Bにて健常人199例を測定したところ、99%タイル値は9.3 U/mLであり、基準値の妥当性が示されました[12]。
ステイシア試薬は以下の構成で設計しています。試薬の設計は各社で異なり、この違いから測定結果の乖離が生じる可能性があります。
•ステイシア試薬の設計
ステイシア MEBLux™テスト CENP-B | |
---|---|
測定原理 | CLEIA |
抗原由来 | リコンビナントCENP-B |
検出用抗体 | 抗ヒトイムノグロブリンポリクローナル抗体(ヤギ) |
標識物質 | アルカリホスファターゼ |
検出用基質 | 2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム (慣用名:CDP-Star) |
検出対象 | 発光 |
CLEIA法であるステイシア MEBLux™テスト CENP-Bと、ELISA法であるMESACUP™-2テスト CENP-Bを用いて219種の検体を測定し、これらの試薬間の相関を解析しました。MESACUP™-2テストの±域を陰性とした場合、両試薬間の陽性一致率は93.9%(107/114)、陰性一致率は99.0%(104/105)、判定一致率は96.3%(211/219)と良好な相関を示しました[12]。
ステイシア試薬とMESACUP試薬ではCLEIA法とELISA法の測定原理の違いにより判定乖離が起こる可能性が考えられます。また、低力価の検体について判定の乖離が起こる例が報告されています[12]。
•IIF法のみ陽性
HEp-2細胞を用いたIIF法では、ACAはセントロメア型(Discrete speckled型)として検出されます。IIF法とステイシア MEBLux™テスト CENP-Bとでは用いられている抗原が違うためIIF法のみが陽性となる場合があります。ステイシアCENP-Bには抗原としてCENP-Bが用いられていますが、IIF法は細胞を抗原としているため、CENP-B以外のACA抗原(CENP-A、CENP-Cなど)も含みます。CENP-B以外のACA抗原に対する抗体の存在により、ステイシアCENP-Bが陰性かつIIF法陽性という結果は生じえます。
•ステイシア MEBLux™テスト CENP-Bのみ陽性
ステイシアCENP-Bが陽性かつ、IIF法陰性の場合、各試薬の各自己抗体に対する感度に起因すると考えられます。IIF法ではCENP-B以外にも多くの抗原を含み、多様な自己抗体を検出します。一方、ステイシアCENP-Bでは、CENP-B抗原のみを用いており、個別の自己抗体に対する感度はIIF法より高くなると考えられます。
最終更新日:2021年7月