略語集
PM: polymyositis (多発性筋炎)
DM: dermatomyositis (皮膚筋炎)
ENA: extractable nuclear antigen (可溶性核抗原)
MSA: myositis-specific autoantibody (筋炎特異的自己抗体)
MAA: myositis-associated autoantibody (筋炎関連自己抗体)
ARS: aminoacyl-tRNA synthetase (アミノアシルtRNA合成酵素)
ASyS: anti-synthetase syndrome (抗ARS抗体症候群 ・抗合成酵素(抗体)症候群)
CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay (化学発光酵素免疫測定法)
ELISA: enzyme-linked immunosorbent assay (酵素免疫測定法)
IIF: indirect immunofluorescence (間接蛍光抗体法)
ICAP: international consensus on antinuclear antibody pattern (抗核抗体染色型に関する国際的コンセンサス)
抗Jo-1抗体は、多発性筋炎(polymyositis: PM)/皮膚筋炎(dermatomyositis: DM)患者血清から見出された抗ENA(extractable nuclear antigen: 可溶性核抗原)抗体の1つです[1]。その対応抗原は、ヒスチジルtRNA合成酵素であることが明らかにされています[2]。
抗Jo-1抗体はPM/DMの重要な疾患標識抗体です。抗Jo-1抗体はPM/DMの15~20%に陽性となる自己抗体であり[3, 4]、特に筋炎と間質性肺病変を合併する症例では、抗Jo-1抗体陽性率は68%と非常に高いことが報告されています[5]。
PM/DMでは様々な抗原に対する自己抗体が見出されており、PM/DM患者特異的に検出される筋炎特異的自己抗体(myositis-specific autoantibody: MSA)と、筋炎重複症候群に見出される筋炎関連自己抗体(myositis-associated autoantibody: MAA)に分類されます。
PM/DMの診断に用いられるMSAは、従来は抗Jo-1抗体のみでしたが、近年では様々なMSAが同定されており、そのひとつにアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase: ARS)を対応抗原とする抗ARS抗体があります。抗Jo-1抗体は抗ARS抗体のひとつに含まれ、その他に抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体などが抗ARS抗体に含まれます[3]。
PM/DMの診断のための検査として重要であり、診断基準には抗Jo-1抗体が記載されています[3]。診断基準に記載されている筋炎特異的自己抗体は以下の通りです。
ア) 抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む)
イ) 抗MDA5抗体
ウ) 抗Mi-2抗体
エ) 抗TIF1-γ抗体
オ) 抗NXP2抗体
カ) 抗SAE抗体
キ) 抗SRP抗体
ク) 抗HMGCR抗体
抗ARS抗体陽性患者では,筋症状や間質性肺炎、関節炎、レイノー現象、発熱、機械工の手、などの共通症状が認められるため抗ARS抗体症候群・抗合成酵素(抗体)症候群(anti-synthetase syndrome: ASyS)と呼ばれています[3, 6]。検出される抗ARS抗体の種類によって臨床像に多少の差異があり、抗Jo-1抗体陽性例は筋症状の頻度が多いことや[7]、抗Jo-1抗体の抗体価がCK値、筋症状、関節症状と相関することも報告されています[8]。なお本邦における多発性筋炎・皮膚筋炎 診療ガイドライン2025には、ASySは今後PM/DMと区別されていく可能性が高いことが記載されています[3]。
薬剤の使用によって抗Jo-1抗体の発現が誘導されるという報告はなく、また抗Jo-1抗体の陽陰性によって使用の可否が判断される薬剤も報告はありません。なお、リツキシマブ治療を受けた筋炎患者コホートにおいて、抗合成酵素抗体 (主として抗Jo-1抗体)陽性例などでは改善までの期間が短く、抗Jo-1抗体などの存在が臨床的改善に関連する予測因子であることが報告されています[9]。
•化学発光酵素免疫測定法:ステイシア試薬
(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)
検出に化学発光を用いる酵素免疫測定法です。抗原が結合した磁性粒子と検体を反応させると抗原-抗体反応が生じます。この磁性粒子を集磁・洗浄した後、酵素標識抗体を加えると、抗原結合磁性粒子-抗体-酵素標識抗体の複合体が形成されます。続いて集磁・洗浄し未反応物を除去してから、基質液を加えると、基質は複合体中の酵素によって加水分解され発光します。この発光をカウントすることによって検体中の抗原特異的自己抗体濃度を測定します。溶液中に浮遊する抗原結合磁性粒子と検体を混合して反応させることで、短時間で効率的な自己抗体の検出が可能です。
ステイシア MEBLux™テスト Jo-1では、固相抗原にリコンビナントJo-1抗原を用います。
•最小検出感度
1.0 U/mL
•基準値
陽性:≧10.0 U/mL
陰性:<10.0 U/mL
ステイシア試薬は以下の構成で設計しています。試薬の設計は各社で異なり、この違いから測定結果の乖離が生じる可能性があります。
•ステイシア試薬の設計
| ステイシア MEBLux™テスト Jo-1 | |
|---|---|
| 測定原理 | CLEIA |
| 抗原由来 | リコンビナントJo-1 |
| 検出用抗体 | 抗ヒトイムノグロブリンポリクローナル抗体(ヤギ) |
| 検出対象抗体 | ヒトイムノグロブリン |
| 標識物質 | アルカリホスファターゼ |
| 検出用基質 | 2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム (慣用名:CDP-Star) |
| 検出対象 | 発光 |
ステイシア MEBLux™テスト Jo-1とMESACUP™ anti-ARSでは測定試薬に含まれる抗原が異なります。ステイシア試薬ではJo-1抗原のみを含みますが、MESACUP™試薬ではJo-1の他、PL-7、PL-12、EJ、KSの計5種類の抗原を含みます[10]。そのため検体中に抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、または抗KS抗体が存在する場合には、ステイシアJo-1陰性かつMESACUP™ anti-ARS陽性という結果は生じえます。
また検出対象の自己抗体のクラスも乖離の要因となる可能性があります。ステイシア試薬ではヒトイムノグロブリンを検出しますが、MESACUP™試薬ではヒトIgGを検出します。そのため検体中に含まれる抗Jo-1抗体がIgG型以外の場合には、ステイシアJo-1陽性かつMESACUP™ anti-ARS陰性という結果は生じえます。またステイシア試薬とMESACUP™試薬はそれぞれCLEIAとELISA (enzyme-linked immunosorbent assay)法と測定原理が異なるため、測定原理の違いに起因して判定乖離が起こる可能性もあります。
•IIF法における抗Jo-1抗体の染色パターン
HEp-2細胞を基質とした間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence: IIF)において、抗Jo-1抗体は核および細胞質の顆粒状の染色パターンを呈することが報告されています[11]。抗核抗体染色型に関する国際的コンセンサス(international consensus on antinuclear antibody pattern; ICAP)の分類においては、AC-20型(cytoplasmic fine speckled; 細胞質斑紋型)の関連抗原としてJo-1が報告されています[12]。しかし、AC-20型は抗Jo-1抗体に特異的ではないため、抗Jo-1抗体のフォローアップ検査が推奨されており、また抗Jo-1抗体はHEp-2 IIFでは検出されないこともあります[13]。
•ステイシア試薬とフルオロ HEPANA-2 テストの乖離要因
2試薬間の乖離は使用抗原の違い、測定原理の違いに由来すると考えられます。ステイシア MEBLux™テスト Jo-1はリコンビナントJo-1を抗原として用い、測定原理をCLEIAとして抗Jo-1抗体を検出します。対して、フルオロ HEPANA-2 テストはHEp-2培養細胞を抗原として用い、IIFにより抗Jo-1抗体を含む自己抗体を検出します。HEp-2 IIFではHEp-2細胞に存在するあらゆる種類の抗原が検出対象となり、特定の抗原を用いるステイシア試薬より多くの自己抗体を検出します。使用抗原や測定原理の違いの他、抗Jo-1抗体はHEp-2 IIFでは検出されない場合もあるため[13]、2つの試薬間において結果の乖離が生じえます。
最終更新日:2025年8月