略語集
AIH:Autoimmune hepatitis(自己免疫性肝炎)
ALL:Acute lymphoblastic leukemia(急性リンパ性白血病)
CD:Crohn's disease(クローン病)
CNS:Central nervous system(中枢神経系)
IBD:Inflammatory bowel disease(炎症性腸疾患)
NUDT15:Nudix hydrolase 15
UC:Ulcerative colitis(潰瘍性大腸炎)
チオプリン製剤として、アザチオプリンとメルカプトプリン水和物(6-メルカプトプリン)の2種類があります。炎症性腸疾患では免疫抑制薬(チオプリン系免疫調節薬)、小児白血病では抗癌剤として使用されます。アザチオプリンはプロドラッグであり、生体内でグルタチオン-S-トランスフェラーゼによりメルカプトプリン水和物に代謝されます。
古くから使用されている製剤で、下記の表に記載されている効能又は効果があります。
製剤の効能又は効果に関しては各製薬会社にご確認ください。
チオプリン製剤を免疫調節薬として服用した日本人の炎症性腸疾患(IBD)患者135例を対象とした研究では、NUDT15遺伝子のコドン139がシステインホモ(Cys/Cys型)である患者5例全てが8週間未満に重篤な白血球減少症(白血球数<2,000 cells/mm³)及び脱毛症を発症したことが報告されています1)。また、メルカプトプリン水和物を代謝拮抗薬として服用した小児の急性リンパ性白血病(ALL)患者92例を対象とした研究では、NUDT15遺伝子のコドン139がCys/Cys型である患者6例中5例が服用後60日以内に重篤な白血球減少症(白血球数<2,000 cells/mm³)を発症したことが報告されています2)。 NUDT15遺伝子のコドン139のCys/Cys型とチオプリン製剤の服用によって発症する重篤な副作用との関連は、リウマチ性疾患や臓器移植後の患者でも報告されています3)4)。
<IBD患者における遺伝子型の頻度と副作用発症状況>
<小児ALL患者におけるNUDT15遺伝子多型と重度の白血球減少症>
Nudix hydrolase 15(NUDT15)は、炎症性腸疾患や白血病、リウマチ性疾患、臓器移植後の患者に使用されるチオプリン製剤の薬効を示す活性型分子の代謝に関わる酵素の1つです。NUDT15は体内の活性型分子である、6-thio-GTP、6-thio-dGTPを加水分解し、不活性化する働きがあります。しかし、NUDT15遺伝子のコドン139におけるアミノ酸残基がアルギニン(Arg)からCysに変化する遺伝子多型を持つ場合、その酵素活性は著しく低下します。そのため、コドン139のアミノ酸残基がCys/Cys型の患者では、チオプリン製剤を投与すると活性型分子の分解が抑制され薬効が強く出るため、重篤な副作用(重度の白血球減少症及び脱毛症)を発症するリスクが高いことが報告されています5)6)7)。
NUDT15は炎症性腸疾患、白血病、リウマチ性疾患、臓器移植後の患者に使用される、アザチオプリン及びメルカプトプリン水和物の代謝に関わる酵素の1つです。NUDT15はコドン139のアレルによって酵素活性が変化し、活性が著しく低下するコドン139がシステインホモの患者では、アザチオプリンやメルカプトプリン水和物を服用すると重篤な副作用(重度の白血球減少症及び脱毛症)を発症するリスクが高いことが報告されています5)6)7)。
アザチオプリンやメルカプトプリン水和物を免疫調節薬(以下、チオプリン系免疫調節薬)として服用した日本人の炎症性腸疾患患者135例を対象とした研究では、NUDT15遺伝子のコドン139がシステインホモである患者5例全てが8週間未満に重篤な白血球減少症(白血球数<2,000 cells/mm³)及び脱毛症を発症したことが報告されています。また、メルカプトプリン水和物を代謝拮抗薬として服用した小児の急性リンパ性白血病患者92例を対象とした研究では、NUDT15遺伝子のコドン139がシステインホモである患者6例中5例が服用後60日以内に重篤な白血球減少症(白血球数<2,000 cells/mm³)を発症したことが報告されています。NUDT15遺伝子のコドン139のシステインホモとアザチオプリンやメルカプトプリン水和物の服用によって発症する重篤な副作用との関連は、リウマチ性疾患や臓器移植後の患者でも報告されています3)4)。
本品は患者の全血から抽出したゲノムDNAを検体としてNUDT15遺伝子のコドン139のアレルを判定することによって、NUDT15活性が減少している可能性のある患者を識別することができます。したがって、本品はアザチオプリンやメルカプトプリン水和物の服用後に重篤な副作用を発症するリスクが高い患者を特定することができ、治療方法の選択の補助に有用です。
<IBD患者における遺伝子型の頻度と副作用発症状況>
<小児ALL患者におけるNUDT15遺伝子多型と重度の白血球減少症>
チオプリン製剤は様々な疾患に使われていますが、副作用があり、一部の患者において、重度の白血球減少症や脱毛症といった重篤な副作用が生じることが知られています。
2018年に東北大学の角田先生らによって、全国32施設の2630人のIBD患者の遺伝子解析試験が行われました。チオプリン製剤の副作用と相関する遺伝子を網羅的解析し、NUDT15遺伝子のコドン139を調べることが最も適切に重篤な副作用を予測できることを確定しました7)。
2015年に北里大学の田中先生らによって、日本人小児ALL患者において、NUDT15遺伝子のコドン139のアミノ酸残基がCysのみとなる患者では、チオプリン製剤投与開始60日以内にGrade3以上の重度の白血球減少症を発症することが報告されました2)。
2022年時点では、下記の項目が主な適応疾患となっています。
CDもUCも原因がはっきりとはわかっておらず、発症すると長期間の治療が必要な慢性の病気です。また、再燃期と寛解期を繰り返すのが特徴です。チオプリン製剤は、難治例において寛解維持を目的として用いられます。
急性リンパ性白血病(ALL)は、リンパ球に成長途中の段階で遺伝子異常が起こり、白血病細胞が増殖することで発症しますが、発症原因の多くは不明です。急性リンパ性白血病は、小児がんの中で最もよくみられる疾患です。
チオプリン製剤は小児の急性リンパ性白血病の治療で広く使用されており、寛解後の標準的治療などで使用されています。
リウマチ性疾患とは、関節や筋肉などが痛む病気の総称です。有名な疾患は関節リウマチですが、自己免疫疾患や全身性血管炎、多発性筋炎、皮膚筋炎などの疾患も含まれます。
チオプリン製剤の適応疾患は、全身性血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症候群、高安動脈炎等)、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組織病及び難治性リウマチ性疾患です。
自己免疫性肝炎は、多くの場合には慢性に経過する肝炎で、肝細胞が障害されます。自己免疫性肝炎が発病するのには免疫の異常が関係していると考えられていますが、原因や根本的な治療法がまだ明らかになっていません。中年以降の女性に好発することが特徴です。原因がはっきりしている肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、および他の自己免疫疾患による肝障害を除外して診断します。
本品は、リアルタイムPCR法によって、全血から抽出したゲノムDNA中のNUDT15遺伝子のコドン139に存在する遺伝子多型を検出し、3種類のアレル(アルギニン、システイン若しくはヒスチジンをコードする塩基配列)を判定する試薬です。
検体(ゲノムDNA)、マスターミックス、DNAポリメラーゼを混合し、リアルタイムPCR装置を用いてPCRを行います。PCRは、ゲノムDNAを鋳型として、マスターミックスに含まれるNUDT15 Fプライマー、NUDT15 Rプライマー、dNTPs(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)とDNAポリメラーゼに含まれるTaq DNAポリメラーゼによって、NUDT15遺伝子を増幅させます。マスターミックスに含まれるプローブ(Argプローブ、Cysプローブ、Hisプローブ)が検出対象となる塩基配列にハイブリダイズすると、PCRにおける伸長反応の際にTaq DNAポリメラーゼの5’-3’エキソヌクレアーゼ活性によってプローブが加水分解されます。プローブには、蛍光色素と消光物質(クエンチャー)が結合しており、プローブが分解すると蛍光色素から蛍光が発せられます。リアルタイムPCR装置によって、PCRの各サイクルで各蛍光色素の蛍光強度を測定し、マスターミックスに含まれるレファレンス色素(ROX)によって補正して蛍光シグナル値を算出します。検体を測定する際、コントロールDNAも同時に測定し、各プローブを陽性と判断するTn値を決定します。検体とコントロールDNAの測定結果から、各プローブの蛍光シグナル値がTn値以上となるサイクル数を示すCt値を算出します。Ct値が所定の範囲に入るときに当該プローブを陽性と判断し、陽性となったプローブの組合せから、検体のNUDT15遺伝子のコドン139のアレルを判定します。
PCRサイクルごとに、ROX補正された蛍光強度(Rn(x))からベースラインの数値を引いてCy5、FAM、JOEの蛍光シグナル値(ΔRn(x))を算出します。
コントロールDNAの32サイクル目のΔRn(x)をTn値とし、プローブごとに算出します。Ct値は、検体を測定したときのプローブごとのΔRn(x)が、Tn値以上となるときのサイクル数とします。
Ct値が24.0~35.0を示すとき、当該蛍光色素を標識したプローブを陽性と判断します。陽性となるプローブの組合せから、下表に従って、NUDT15遺伝子のコドン139のアレルを判定します。
判定結果 | Argプローブ (JOE) |
Cysプローブ (FAM) |
Hisプローブ (Cy5™) |
---|---|---|---|
Arg/Arg | 陽性 | - | - |
Cys/Cys | - | 陽性 | - |
His/His | - | - | 陽性 |
Arg/Cys | 陽性 | 陽性 | - |
Arg/His | 陽性 | - | 陽性 |
Cys/His | - | 陽性 | 陽性 |
判定不能 | 陽性 | 陽性 | 陽性 |
- | - | - | |
いずれか1つ以上のプローブのCt値が24.0未満又は35.1以上 |
MEBRIGHT™ NUDT15 キット
測定原理 リアルタイムPCR法
<検出対象>
「潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針」令和3年度改訂版
チオプリン製剤(アザチオプリン・6-メルカプトプリン)投与前のNUDT15遺伝子多型検査についての記載があります。
チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛はNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとなっています。それに伴い、2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険承認となっており、初めてチオプリン製剤の投与を考慮する患者に対しては、チオプリン製剤による治療を開始する前に本検査を施行し、NUDT15遺伝子型を確認した上でチオプリン製剤の適応を判断することが推奨されています。Cys/Cys型の場合は、重篤な副作用(高度白血球減少、全脱毛)のリスクが非常に高いためチオプリン製剤の使用を原則として回避し、Arg/Cys、Cys/His型の場合は低用量からの開始を考慮する必要があります。しかし、チオプリン製剤の副作用のすべてがNUDT15遺伝子多型に起因するものではないため、定期的な副作用モニタリングを実施することとの記載があります。
「小児白血病・リンパ腫 診療ガイドライン」 2016年版
小児 ALL の寛解後の標準的治療法および標準的維持療法、乳児 ALL の標準的治療法についての記載があります。
小児ALLの寛解後には,CNS(中枢神経系:Central nervous system)予防治療および再寛解導入療法を含む寛解後強化療法を行うことを強く推奨しています。また、メルカプトプリン内服とメトトレキサート(MTX)投与の併用療法は、小児ALLにおける標準的維持療法と考えられています。
「自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021)」
自己免疫性肝炎患者において、新規にアザチオプリンを開始する前にはNUDT15遺伝子多型検査を実施し、副作用に留意する必要があるとの記載があります。
全血から抽出したゲノムDNA中のNUDT15遺伝子のコドン139に存在する遺伝子多型をリアルタイムPCR法で検出し、3種類のアレル(Arg、Cys若しくはHisをコードする塩基配列)を判定します。
NUDT15遺伝子のコドン139に存在する2種類の遺伝子多型(rs116855232及びrs147390019)を検出し、3種類のアレル(Arg、Cys若しくはHisをコードする塩基配列)を判定します。
NUDT15はコドン139のアレルによって酵素活性が変化し、活性が著しく低下するコドン139がCys/Cys型の患者では、アザチオプリンやメルカプトプリン水和物を服用すると重篤な副作用(重度の白血球減少症及び脱毛症)を発症するリスクが高いことが報告されています。
本品は患者の全血から抽出したゲノムDNAを検体としてNUDT15遺伝子のコドン139のアレルを判定することによって、NUDT15活性が減少している可能性のある患者を識別することができます。
潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針には、「日本人の約1%に存在するCys/Cys型の場合は、重篤な副作用(高度白血球減少、全脱毛)のリスクが非常に高いためチオプリン製剤の使用を原則として回避し、Arg/Cys、Cys/His型の場合は低用量(通常量の半分程度を目安とする)からの開始を考慮する。これらの副作用リスクが低いArg/Arg、Arg/His型の場合であっても、チオプリン製剤の副作用のすべてがNUDT15遺伝子多型に起因するものでないため、使用に際しては定期的な副作用モニタリングを実施する。」と記載されています。
治療方針に関しては、各疾患のガイドラインに従ってください。
DNA抽出用試薬
滅菌水又はDNA溶解液(1 mmol/L Tris-HCl(pH8.0)、0.1 mmol/L EDTA)
クリーンベンチ
マイクロピペット、フィルターチップ
マイクロチューブ
PCRプレート
プレートシール
リアルタイムPCR装置(アプライドバイオシステムズ QuantStudio™ 5 Dx)など
プレートミキサー又はボルテックスミキサー
遠心機 など
判定の補助として、解析ソフトウェア「UniMAG™ for Real-time PCR」を使用することで迅速に判定結果を得ることも可能です。対応可能なソフトウェアのバージョンについてはこちらからお問い合わせください
詳細につきましては当社までお問い合わせください。
添付文書をよく読んでからお使いください。
<検体>
全血から抽出したゲノムDNAを検体として用います。
遺伝子検査に適したDNA抽出試薬を用いて行ってください。本品での測定にはDNA溶液を5 μL使用します。DNA濃度は、4~20 ng/μLを推奨します。
検体は、DNaseなどのコンタミネーションを避け、2~8℃で保管し、7日以内に測定に用いてください。7日を超えて保管する場合は、-20℃以下で保管してください。
<試薬>
異なる製品ロットの試薬を混合しての使用や、組み合わせての使用は行わないでください。また、同一の製品ロットであっても試薬を注ぎ足すことはしないでください。
マスターミックスとコントロールDNAは、-15℃~-35℃で保存し、凍結融解回数は5回以内としてください。DNAポリメラーゼは室温に放置すると失活する可能性がありますので、-15℃~-35℃で保存してください。
GS-R0101 MEBRIGHT™ NUDT15 キット(冷凍品)
9725-140 UniMAG™ for Real-time PCR
最終更新日:2023年7月