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FAQ

MEBGEN™ BRAF キット

略語集

BRAF: B-Raf proto-oncogene, serine/threonine kinase
EGF: Epidermal growth factor(上皮成長因子)
EGFR: Epidermal growth factor receptor(上皮成長因子受容体)
ERK: Extracellular regulated MAP kinase
MAPK: Mitogen-activated protein kinase(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)
MEK: Mitogen-activated extracellular signal-regulated kinase(マイトジェン活性化細胞外シグナル関連キナーゼ)

治療薬解説

  • ダブラフェニブメシル酸塩:
    BRAF変異型(V600E、V600K及びV600D)のキナーゼ活性を阻害し、RAFシグナル経路下流のERKのリン酸化を阻害するBRAF阻害薬である。
  • トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物:
    MEK1及びMEK2の活性化並びにキナーゼ活性を阻害し、MEKの基質であるERKのリン酸化を阻害するMEK阻害薬である。
  • エンコラフェニブ:
    ヒトBRAF V600Eのキナーゼ活性を阻害し、MAPK経路のシグナル伝達分子(MEK及びERK)のリン酸化を阻害するBRAF阻害薬である。
  • ビニメチニブ:
    ヒトMEK1及びMEK2の活性化及びキナーゼ活性を阻害し、MAPK経路のシグナル伝達分子(ERK)のリン酸化を阻害するMEK阻害薬である。

1.BRAFについて

BRAFとは

BRAF(B-Raf proto-oncogene, serine/threonine kinase)遺伝子は、細胞の分化、増殖に関与し、RAS/RAF/MEK/ERK経路を構成するセリン/スレオニンキナーゼであるBRAFタンパク質をコードしています。
BRAFタンパク質が活性化されると、MEK/ERKなどのMAPKカスケードが次々に活性化され、細胞増殖が促進されます。(図1)


BRAFとMAPKカスケード
図1. BRAFとMAPKカスケード


BRAF遺伝子変異の測定意義

悪性黒色腫では様々な遺伝子異常が報告されていますが、BRAF遺伝子変異が最も多く、白人では患者全体の40~60%、日本人では約30%と報告されています。また、日本人患者におけるBRAF遺伝子変異の94%がV600E変異、6%がV600K変異と言われています。
BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫の場合、BRAF阻害薬による治療を選択することが可能です。BRAF阻害薬単剤療法では、半年から1年程度で治療抵抗性になることが知られているため、BRAF阻害薬にMEK阻害薬を併用する治療法(エンコラフェニブ及びビニメチニブ、又はダブラフェニブ及びトラメチニブ)が推奨されています。そのため、悪性黒色腫では、BRAF遺伝子変異の有無に応じて治療方法を選択する必要があり、治療方針の決定前にBRAF遺伝子変異検査を実施することが重要です。



2.BRAF遺伝子変異について

BRAF遺伝子変異とは

BRAF遺伝子の活性型変異が起きるとBRAFキナーゼが恒常的に活性化され、下流タンパク質を恒常的に活性化させます。MEK/ERKなどが次々に活性化され増殖シグナルが出続けるため、細胞増殖が続きます。(図2)
BRAF遺伝子の変異率は日本人の悪性黒色腫で約30%と報告されており、その内94%がV600E変異、6%がV600K変異と言われています。V600E/K変異以外にも、V600D変異、V600R変異、V600M変異などが知られていますが、悪性黒色腫においては稀であることが報告されています。


BRAFとMAPKカスケード
図2. BRAF遺伝子変異



3.試薬について

測定原理

PCR-rSSO(polymerase chain reaction-reverse sequence specific oligonucleotide)法は増幅させたPCR増幅産物にビーズやナイロン膜などに固相された配列特異的プローブをハイブリダイズさせ、プローブに標識された蛍光物質などのシグナルを検出する方法です。
本品では、ビーズとフィコエリスリン(PE)の蛍光を測定し検出する方法を用いています。ビオチン標識プライマーで増幅させたPCR増幅産物と蛍光ビーズ上に固相された配列特異的プローブをハイブリダイズさせます。ビーズを洗浄し、蛍光標識タンパク質SA-PE(ストレプトアビジン結合フィコエリスリン)を反応させると、PCR増幅産物は蛍光標識されます。このPEとビーズの蛍光をフローサイトメトリーの原理を応用したLuminexシステムの2種類のレーザーで同時に検出します。


ビオチン標識プライマーを用いて増幅
ビオチン標識プライマーを用いて増幅


PCR増幅産物に配列特異的プローブをハイブリダイズさせ検出
PCR増幅産物に配列特異的プローブをハイブリダイズさせ検出


xMAP® (Luminex®)システム測定原理

Luminex2色マイクロビーズをいろいろな濃度で組み合わせた2色の蛍光色素で染色し、蛍光色素の含有量を識別コードとして用います。

それぞれのビーズに個別の解析対象と結合する物質を固定させ、少量サンプルで多項目を同時に解析することができます。

ビーズには核酸類のほか、抗原・抗体のようなタンパク質なども固定でき、さまざまな実験に用いることができます。


xMAP法(Luminex)を用いたPCR-rSSO法
xMAP®法 (Luminex®)を用いたPCR-rSSO法


※Luminex®、xMAP®はLuminex社の商標です。



測定結果の判定法

PCビーズの測定値がカットオフ値(3,000)以上であることを確認します。
PCビーズの測定値が要件を満たしている場合に、BRAF遺伝子変異の判定が可能となります。「測定検体」のBRAF遺伝子変異検出ビーズ(変異検出ビーズ)測定値及び「野生型コントロールDNA溶液」の変異検出ビーズ測定値を用いて、次の計算式によってIndex値を算出します。


Index値の計算式

A:測定検体の変異検出ビーズ測定値
B:野生型コントロールDNA溶液の変異検出ビーズ測定値
C:測定検体のPCビーズ測定値
D:野生型コントロールDNA溶液のPCビーズ測定値


Index値について、各変異検出ビーズに設定されたカットオフ値を用いて変異検出ビーズの陽陰性を判定し、BRAF遺伝子変異の陽陰性を判定します。


<カットオフ値>

変異検出ビーズ カットオフ値
BRAF遺伝子変異 BR_2_V600Ea 400
BR_3_V600Eaa 1,300
BR_4_V600K 900

*V600E変異を検出するビーズは、c.1799T>Aの塩基配列を検出するBR_2_V600Eaと、c.1799_1800TG>AAの塩基配列を検出するBR_3_V600Eaaの2種類です。

<遺伝子変異判定>

BRAF遺伝子変異判定
PCビーズがカットオフ値以上かつBRAF遺伝子変異検出ビーズが1つ以上陽性 BRAF遺伝子変異陽性
PCビーズがカットオフ値以上かつBRAF遺伝子変異検出ビーズが全て陰性 BRAF遺伝子変異陰性
PCビーズがカットオフ値未満 判定保留

実際に判定する際には添付文書をご参照ください。
判定の補助として、解析ソフトウェア「Luminex®解析ソフトウェア UniMAG™ v2」を使用することで、迅速に判定結果を得ることも可能です。対応可能な解析ソフトウェアのバージョンについては、[問い合わせ先]にお問い合わせください。


試薬の設計

MEBGEN™ BRAF キット
測定原理 PCR-rSSO法


<検出対象遺伝子変異>

検出対象変異


エクソン コドン 変異検出ビーズ 塩基配列
エクソン15 600 BR_2_V600Ea c.1799T>A
BR_3_V600Eaa c.1799_1800TG>AA
BR_4_V600K c.1798_1799GT>AA

*V600E変異を検出するビーズは、c.1799T>Aの塩基配列を検出するBR_2_V600Eaと、c.1799_1800TG>AAの塩基配列を検出するBR_3_V600Eaaの2種類です。

検査を行うにあたり指針やガイドラインはあるか?

「皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 メラノーマ診療ガイドライン 2019」
BRAFV600E/K変異を有するメラノーマに対する治療法について記載されています。
完全切除が得られた術後病期IIIA(センチネルリンパ節転移巣の長径が1 mm超のみ)からIIIC(AJCC 第7版)のBRAFV600E/K変異を有するメラノーマに対して、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法を用いた1年間の術後補助療法を行うことを強く推奨しています。


MEBGEN™ BRAF キットはどの薬剤に対するコンパニオン診断薬か?

本品は、悪性黒色腫患者に対するBRAF阻害薬とMEK阻害薬(エンコラフェニブ及びビニメチニブ、又はダブラフェニブ及びトラメチニブ)を併用する治療法の適応判定の補助として用いるコンパニオン診断薬です。


MEBGEN™ BRAF キットが検出できる遺伝子変異の種類は?

BRAF遺伝子の2種類のアミノ酸置換(3種類の塩基配列置換)を伴う遺伝子変異が検出できます。



エクソン コドン 変異検出ビーズ 塩基配列
エクソン15 600 BR_2_V600Ea c.1799T>A
BR_3_V600Eaa c.1799_1800TG>AA
BR_4_V600K c.1798_1799GT>AA
*V600E変異を検出するビーズは、c.1799T>Aの塩基配列を検出するBR_2_V600Eaと、c.1799_1800TG>AAの塩基配列を検出するBR_3_V600Eaaの2種類です。

測定・解析を実施する際に必要な器具、器材、試薬は?

DNA抽出用試薬
滅菌精製水又はDNA溶解液(1 mmol/L Tris-HCl(pH8.0)、0.1 mmol/L EDTA)
クリーンベンチ
マイクロピペット、フィルター付きチップ
増幅反応用PCRプレート
プレートシール
サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズVRTi Dx(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)など)
ディスペンサートレイ
プレートミキサー又はボルテックスミキサー
Luminex® 100/200™システム
Luminexシステム測定用プレート
プレートカバー
プレート遠心機
洗浄機      など

測定データ解析時には下記のソフトウェアがあると迅速な判定が可能です。
Luminex®解析ソフトウェアUniMAG™ v2
詳細につきましては当社までお問い合わせください。


検体や試薬についての注意事項

添付文書をよく読んでからお使いください。


<検体>

がん組織のFFPE組織切片を測定試料とし、測定試料から抽出したDNAを検体として用います。詳しくは日本臨床検査標準協議会の「遺伝子関連検査 検体品質管理マニュアル」、日本病理学会の「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」を参照してください。
遺伝子検査に適したDNA抽出試薬を用いて行ってください。本品での測定にはDNA溶液を5 µL使用します。DNA濃度は、10~20 ng/µLを推奨します。
抽出したDNAを保管する場合は、DNaseなどのコンタミネーションを避け、-20℃以下で凍結して保管してください。


<試薬>

異なる製品ロットの試薬を混合したり、組み合わせたりして使用しないでください。また、同一の製品ロットであっても試薬を注ぎ足すことはしないでください。
マスターミックスは-15~-35℃で保存できますが、凍結融解回数は6回以内としてください。Taq DNAポリメラーゼ及びウラシルDNAグリコシラーゼは室温に放置すると失活する可能性がありますので、使用後は-15~-35℃で保存してください。
最小検出感度は、375コピー/反応(2本鎖DNAとして)です。ヒトゲノムDNAを含まないサンプルの結果については、Index値の信頼性を保証致しません。


<妨害物質の影響>

以下について、本品の判定結果に影響がないことを確認しています。
・ 出血性組織(FFPE切片試料の溶解工程までにヘモグロビンを4 mg/mL及び2 mg/mL添加)
・ 脂肪組織(FFPE切片試料の溶解工程までにトリグリセリドを74 mmol/L及び37 mmol/L添加)
・ メラニン(FFPE切片試料の溶解工程までにメラニンを0.2 µg/mL添加)
・ メラニン(ヒトゲノムDNAにメラニンを1 ng/反応添加)

メラニンは、FFPE切片試料の溶解工程までに2 µg/mL以上、若しくはヒトゲノムDNAに5 ng/反応以上添加した場合に、本品の判定結果に影響を与えることを確認しています。メラニン色素含有量が多い検体の場合、推奨濃度範囲内で検体を希釈する、PCR阻害物質除去キットOneStep PCR Inhibitor Removal Kits(ザイモリサーチ社)を用いて検体を精製するなどによって、判定結果を得られることがあります。



4.参考文献

  • 遺伝子関連検査 検体品質管理マニュアル 日本臨床検査標準協議会
  • ゲノム研究用病理組織検体取扱い規定 日本病理学会
  • 皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版メラノーマ診療ガイドライン2019 日本皮膚科学会、日本皮膚悪性腫瘍学会
  • Kaori Sakaizawa, Atsuko Ashida, Aya Uchiyama, Takamichi Ito, Yasuhiro Fujisawa, Dai Ogata, Shigeto Matsushita, Kazuyasu Fujii, Satoshi Fukushima, Yoshitsugu Shibayama, Naohito Hatta, Tatsuya Takenouchi, Jiro Uehara, Ryuhei Okuyama, Naoya Yamazaki, Hisashi Uhara. Clinical characteristics associated with BRAF, NRAS and KIT mutations in Japanese melanoma patients, Journal of Dermatological Science. 2015; 80: 33-37
  • Andrei Popescu, Andrei Haidar, Rodica Maricela Anghel. Treating malignant melanoma when a rare BRAF V600M mutation is present: case report and literature review. Rom J Intern Med. 2018; 56(2): 122-126
  • Haruka Kuriyama, Toshihiro Kimura, Satoru Mizuhashi, Yuki Nishimura, Hisashi Kanemaru, Ikko Kajihara, Katsunari Makino, Jun Aoi, Hirotaka Matsui, Satoshi Fukushima. A Japanese case of melanoma of unknown origin with a rare BRAFV600R mutation was successfully treated with BRAF/MEK inhibitors. Drug Discov Ther. 2022 Oct 23
  • Rina Kansal, Leticia Quintanilla-Martinez, Vivekananda Datta, Jean Lopategui, Gary Garshfield, Bharat N Nathwani. Identification of the V600D mutation in Exon 15 of the BRAF oncogene in congenital, benign langerhans cell histiocytosis. Genes Chromosomes Cancer. 2013 Jan; 52(1): 99-106

5.関連製品

GS-D0441 MEBGEN™ BRAF キット(冷凍品)
GS-D0442 MEBGEN™ BRAF キット(冷蔵品)
9725 Luminex® 100/200™ システム
9725-130 Luminex®解析ソフトウェア UniMAG™ v2.3


最終更新日:2023年3月