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FAQ

MEBGEN™ AZF Deletion キット

略語集

AZF: azoospermia factor(無精子症因子)
ICSI: intracytoplasmic sperm injection(卵細胞質内精子注入法)
MESA: microsurgical epididymal sperm aspiration(顕微鏡下精巣上体精子吸引術)
micro-TESE: microdissection testicular sperm extraction(顕微鏡下精巣内精子採取術)
NOA: non-obstructive azoospermia(非閉塞性無精子症)
OA: obstructive azoospermia(閉塞性無精子症)
PCR-rSSO: polymerase chain reaction reverse sequence specific oligonucleotide
SA-PE: Streptavidin, R-Phycoerythrin Conjugate(ストレプトアビジン結合フィコエリスリン)
STS: sequence-tagged site(塩基配列標識部位)

1.AZFについて

AZFとは

AZF(azoospermia factor)は、男性の性染色体であるY染色体上に存在し、精子形成に必要な遺伝子がコードされている領域です。AZF領域は大きく3つの領域に分類され、AZFa、AZFb、AZFc(AZFbとAZFcは一部重複)と呼ばれています。AZF領域に欠失が生じた場合、精子形成に関連する遺伝子が失われている可能性があり、造精機能に影響を及ぼすことが報告されています。



Y染色体微小欠失検査の測定意義
男性不妊症の原因は、造精機能障害、精路通過障害、性機能障害に大別されます。造精機能障害に起因する無精子症や乏精子症では、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)を用いて精巣から精子を採取し、顕微授精(ICSI)などに用いることがあります。このような治療によって無精子症や乏精子症でも挙児が可能となる一方で、micro-TESEは、侵襲性が高いことや必ずしも精子を得られない場合があることが課題となっています。
micro-TESEで精子を得られない理由の一つとして、Y染色体微小欠失が知られています。本邦の生殖医療に関するガイドラインには「顕微鏡下精巣内精子採取術前にはY染色体微小欠失検査を行う」と記載されており、micro-TESEを実施する前にY染色体微小欠失検査を行うことが強く推奨されています。


※生殖医療ガイドライン(一般社団法人日本生殖医学会)



2.男性不妊症について

男性不妊症とは

男性不妊症には、造精機能障害、精路通過障害、性機能障害などがあります。


•造精機能障害

精子を造る機能に障害があり、射精される精液の中の精子の数が少ない、もしくは運動率が低下している症状。

•精路通過障害

精子は作られているものの、精巣上体や精管などの精路に異常があり閉じてしまい、精液中に精子がない症状。

•性機能障害

勃起ができず挿入できない、勃起はするが射精がうまくいかないなどの症状。


詳しくは日本生殖医学会のホームぺージをご参照ください。


男性不妊症の治療

造精機能障害による非閉塞性無精子症(NOA)では、外科的精子採取およびICSIが必要となります。精路通過障害による閉塞性無精子症(OA)では、精路再建手術や、外科的精子採取およびICSIが挙げられます。外科的精子採取には、顕微鏡下精巣上体精子吸引術(MESA)や精巣内精子採取術(TESE)などがあります。MESAは、閉塞性無精子症の一部の症例で用いられ、TESEは閉塞性無精子症や非閉塞性無精子症に用いられます。TESEには、精巣白膜を1か所または複数箇所切開して精巣組織を採取するsimple TESEと精巣白膜を大きく開いて精細管採取するmicro-TESEがあります。非閉塞性無精子症では、精巣内の精子形成が不均一なため、精子採取率が高いmicro-TESEが治療法の一つとして採用されます。



3.試薬について

測定原理

PCR-rSSO法(polymerase chain reaction-reverse sequence specific oligonucleotide)は増幅させたPCR増幅産物にビーズやナイロン膜などに固相された配列特異的プローブをハイブリダイズさせ、プローブに標識した蛍光物質などで蛍光を検出する方法です。
本試薬では、ビーズとフィコエリスリンの蛍光を測定し検出する方法を用いています。ビオチン標識プライマーで増幅させたPCR増幅産物と蛍光ビーズ上に固相された配列特異的プローブをハイブリダイズさせます。ビーズを洗浄し、蛍光標識タンパク質SA-PEを反応させると、PCR増幅産物は蛍光標識されます。このフィコエリスリンとビーズの蛍光をフローサイトメトリーの原理を応用したLuminexシステムの2種類のレーザーで同時に検出します。

ビオチン標識プライマーを用いて増幅

PCR増幅産物に配列特異的プローブをハイブリダイズさせ検出


xMAP® (Luminex®)システム測定原理

マイクロビーズをいろいろな濃度で組み合わせた2色の蛍光色素で染色し、蛍光色素の含有量を識別コードとして用います。

それぞれのビーズに個別の解析対象と結合する物質を固定させ、少量サンプルで多項目を同時に解析することができます。

ビーズには核酸類のほか、抗原・抗体のようなタンパク質なども固定でき、さまざまな実験に用いることができます。

xMAP® (Luminex®)法を用いたPCR-rSSO法

※Luminex®、xMAP®はLuminex社の商標です。


測定結果の判定法

Index値(=ビーズの測定値-NC-1ビーズの測定値)とカットオフ値を比較し、カットオフ値以上を陽性、カットオフ値未満を陰性と判定します。また、NC-1ビーズは、測定値とカットオフ値を比較し、カットオフ値以上を陽性、カットオフ値未満を陰性と判定します。
NC-1ビーズが陽性、または陽性コントロールであるsY757-1、sY757-2ビーズのいずれか1つ以上が陰性となった場合、当該検体は検査不成立とします。
検査が成立し、各ビーズの陽性・陰性パターンと判定パターンを比較し、一致するパターンがあるときは判定結果を該当パターンとします。一致するパターンが無い場合は判定不能とします。

詳細は添付文書をご参照ください。


クリックすると拡大版がご覧いただけます


試薬の設計

MEBGEN™ AZF Deletion キット
測定原理 PCR-rSSO法


検査対象マーカー

Y染色体STSマーカー sY14、sY3118、sY1251、sY1324、sY1316、sY1714、sY1024、 sY1967、sY1309、sY3199、sY1233、sY3010、sY2990、sY1197、 sY1191、sY1291、sY1307、sY1206、sY2858、sY3159
X染色体STSマーカー sY757

STSマーカー



Y染色体微小欠失の出現頻度とTESE適応について

各欠失の出現頻度について、本品と同等の性能を持つ研究用試薬のGENOSEARCH™ AZF Deletionで測定し得られた結果を下記の表に示しています。また、各欠失に対するTESEの適応については、生殖医療ガイドラインおよび参考文献に基づき、記載したものです。治療方針は、他の関連する検査結果や臨床症状などとあわせて総合的に判断してください。

判定結果 出現頻度 顕微鏡下精巣内
精子採取術の結果
TESE適応
精子回収
できた頻度
95%
信頼区間
 検査対象欠失なし 55.8% 28.7%
(39例/136例)
21.2~37.1%
 AZFa欠失 0.4% ×
 AZFb欠失
(P5/proximal P1)
0.2% ×
 AZFb+c欠失
(P5/distal P1)
0.7% 0%
(0例/1例)
×
 AZFc欠失
(b2/b4)
3.8% 60.0%
(6例/10例)
26.2 ~ 87.8% 注1
 Y染色体欠失 0.1% ×
 Y染色体長腕欠失 0.1% ×
Y染色体長腕部分欠失Ⅰ 0.3% 0%
(0例/1例)
×
Y染色体長腕部分欠失Ⅱ 0.3% 0%
(0例/1例)
×
Y染色体長腕部分欠失Ⅲ
0.3% ×
Y染色体長腕部分欠失Ⅳ 0.3% ×
Y染色体長腕部分欠失Ⅴ 0.1% 0%
(0例/1例)
×
Y染色体長腕部分欠失Ⅵ 0.1% ×
AZFc部分欠失(gr/gr) 33.9% 18.7%
(17例/91例)
11.2~28.2% 注1

注1:精子回収の可能性がありますが、精子回収の期待値やAZF欠失が子孫に伝播するリスクを認識した上でTESE実施の判断が必要です。


AZF領域の欠失は遺伝するか?

本検査は生殖細胞系列の遺伝子欠失の有無を対象としているため、AZFc領域の欠失などがある場合、TESE、micro-TESE を経て ICSI を行い、挙児に至った場合、挙児が男児であれば、AZF欠失が伝播する可能性が非常に高いと考えられています。
このため、挙児を目指す場合、専門家による遺伝カウンセリングを行うことが推奨されています。


人種間差による結果への影響は?

本試薬は日本人を対象とした検査試薬として日本人男性における研究に基づいて選択した21種のSTSマーカーを測定対象としています。このため、人種間差による結果への影響については検討しておりません。


測定・解析を実施する際に必要な機器、器材は?

<機器>

Luminex® 100/200™システム
クリーンベンチ
サーマルサイクラー
プレートカバー
プレートミキサー又はボルテックスミキサー
プレート遠心機
洗浄機
紫外線照射箱   など

測定データ解析時には下記のソフトウェアがあると便利です。
Luminex®解析ソフトウェアUniMAG™ v2(v2.3以降)


<器材>

DNA抽出キット
マイクロピペット、フィルター付きチップ
増幅反応用PCRプレート
プレートシール
ディスペンサートレイなど

必要な機器や器材などの詳細につきましては当社までお問い合わせください。


検体や試薬についての注意事項

添付文書をよく読んでからお使いください。


<検体>

全血から抽出したゲノムDNAを検体として用います。抗凝固剤としてヘパリンNaを含む採血管は測定結果に影響を与える可能性がありますので、EDTAを含む採血管を使用してください。
遺伝子検査に適したDNA抽出試薬を用いてください。DNA濃度は、10~20 ng/µLを推奨します。
抽出したDNAを保管する場合は、DNaseなどのコンタミネーションを避け、-20℃以下で凍結して保管し、1箇月以内に使用してください。


<試薬>

ビーズミックス、SA-PE及びこれらを用いて調製した試薬は光によって退色するため、試薬調製時以外は遮光してください。
マスターミックスは-15~-35℃で保存できますが、凍結融解回数は6回以内としてください。Taq DNAポリメラーゼ及びウラシルDNAグリコシラーゼは室温に放置すると失活する可能性がありますので、-15~-35℃で保存してください。



4.参考文献

  • Masashi Iijima, Eitetsu Koh, Kouji Izumi, Masaki Taya, Yuji Maeda, Kouichi Kyono, Atsumi Yoshida and Mikio Namiki. New molecular diagnostic kit to assess Y-chromosome deletions in the Japanese population. Int J Urol. 2014;21:910-16.
  • Stacy Colaco and Deepak Modi. Genetics of the human Y chromosome and its association with male infertility. Reproductive Biology and Endocrinology. 2018;16:14
  • P. H. Vog, A. Edelmann, S. Kirsch, O. Henegariu, P. Hirschmann, F. Kiesewetter, F. M. Köhn, W. B. Schill, S. Farah, C. Ramos, M. Hartmann, W. Hartschuh, D. Meschede, H. M. Behre, A. Castel, E. Nieschlag, W. Weidner, H-J. Gröne, A. Jung, W. Engel, G. Haidl. Human Y Chromosome Azoospermia Factors (AZF) Mapped to Different Subregions in Yq11. Hum Mol Genet. 1996;5:933-43
  • 生殖医療ガイドライン 一般社団法人日本生殖医学会
  • 生殖医療遺伝カウンセリングマニュアル 中外医学社
  • Masashi Iijima, Kazuyoshi Shigehara, Hideki Igarashi, Koichi Kyono, Yasuo Suzuki, Yuji Tsuji, Yoshitomo Kobori, Hideyuki Kobayashi, Atsushi Mizokami. Y chromosome microdeletion screening using a new molecular diagnostic method in 1030 Japanese males with infertility. Asian J Androl. 2020;22:368-71.

5.関連製品

GS-N0211 MEBGEN™ AZF Deletion キット(冷凍品)
GS-N0212 MEBGEN™ AZF Deletion キット(冷蔵品)
9725 Luminex® 100/200™ システム
9725-130 Luminex®解析ソフトウェア UniMAG™ v2.3


最終更新日:2022年8月