天疱瘡群

天疱瘡群 (Pemphigus) は,中年期以降に好発し,皮膚および粘膜を標的とする臓器特異的自己免疫疾患です.組織学的には,ネクローシスを伴わない表皮細胞間の接着阻害 (棘融解,acantholysis) による水疱形成が認められます.免疫学的には,直接蛍光抗体法で表皮細胞膜表面に対する自己抗体の皮膚組織への沈着が認められ,間接蛍光抗体法やELISAでは循環血中に自己抗体が検出されます.また,一見健常に見える皮膚に圧力をかけると表皮が剥離し,びらんを呈します (Nikolsky現象) .自己抗体の対象となる抗原タンパク質は,表皮細胞間接着構造の1つであるデスモソームに存在するカドヘリン型細胞間接着因子であるデスモグレイン1 (Dsg1) やデスモグレイン3 (Dsg3) などが知られています (4,5) .天疱瘡群は,尋常性天疱瘡 (Pemphigus vulgaris: PV) ,落葉状天疱瘡 (Pemphigus foliaceus: PF) ,腫瘍随伴性天疱瘡 (Paraneoplastic pemphigus: PNP) ,その他に分類されます.組織学的にPVは表皮下層の基底膜直上に,PFは表皮上層にそれぞれ棘融解性表皮内水疱を形成します.
2010年の天疱瘡診療ガイドラインでは,国際基準として用いられているPDAI (Pemphigus Disease Area Index,ピーダイ) に準じた重症度判定基準 IIa (完全版) および IIb (簡易版) が,診断基準や従来の重症度判定基準 I に加えて併設されました (6) .
PDAI は,各部位 (皮膚12か所,頭皮1か所,粘膜12か所) における皮疹や粘膜疹の水疱の個数や大きさを指標として算出されています (7) .従来の基準に比べるとスコアが幅広くなったので,主に急性期の病勢の変化をより鋭敏に反映でき,重症例の詳細なスコアリングが可能になっています.また,従来の重症度判定基準 I で用いられていたNikolsky現象の有無や,水疱の新生の有無などは新しい判定基準には含まれていません.現在,個々の判定基準の有効性が詳細に検討されています.天疱瘡の治療は副腎皮質ステロイド薬の内服を基本としますが,効果が見られない場合や重症例に対しては血漿交換療法や2009年に保険適用となったγグロブリン大量静注療法 (IVIG) などの併用療法が行われます (6) .