自己免疫性水疱症の検査

自己免疫性水疱症の検査

株式会社 医学生物学研究所

自己免疫性水疱症の発症と自己抗体

自己免疫性水疱症の発症と自己抗体
天疱瘡 (PV・PF) と抗デスモグレイン抗体

天疱瘡の自己抗原であるDsg1とDsg3は,皮膚と粘膜での発現様式がそれぞれ異なります.皮膚では,Dsg3は表皮下層(基底層や傍基底層)で強く発現するのに対し,Dsg1は表皮下層から上層に向けて増加する発現パターンを示します.一方,粘膜では,Dsg3は粘膜上皮全層で強く発現するのに対し,Dsg1の発現量はDsg3に比べると明らかに低下しています.Dsg1とDsg3は,互いの細胞間接着機能の欠損を補い合っており,天疱瘡での水疱形成の多様性の原因となっています(デスモグレイン代償説,Desmoglein compensation theory)(18,19)

抗Dsg3抗体のみ陽性である場合,皮膚では自己抗体がDsg3による細胞間接着機能を阻害したとしても,Dsg1がこの欠損を代償できるので水疱形成は認められません.これに対して,粘膜ではDsg1の発現が弱いため,上皮の全層でDsg3の機能抑圧を補いきれずに水疱が形成されます (粘膜優位型 PV) . 皮膚では、抗Dsg1抗体と抗Dsg3抗体の双方を持つ場合に,初めて症状が現れます (粘膜皮膚型 PV) . 一方,抗Dsg1抗体のみ陽性である場合,皮膚の上層ではDsg3による代償機構が働かないために水疱が形成されますが,Dsg3が強く発現している粘膜では水疱が形成されません (PF) (20) .抗Dsg3抗体は,PV患者でのみ検出されるのに対し,抗Dsg1抗体はPVとPFの両方で検出される例が多いです.抗Dsg1抗体と抗Dsg3抗体の検出パターンの違いによりPVとPFを鑑別できます.また,血清中抗Dsg1抗体が陰性となる一部のPV患者は粘膜優位型PVと診断され,抗Dsg1抗体陽性の粘膜皮膚型PVと鑑別できます.




水疱性類天疱瘡と抗BP180抗体・抗BP230抗体

抗原が基底細胞外に存在し,抗体価が病態を反映することから,抗BP180抗体が水疱形成に直接関与すると考えられています.その発症機序は,抗BP180抗体によって,BP180の機能が阻害されてヘミデスモソームの結合力が低下するという非炎症性の機序も報告されていますが,一般的には,自己抗体がヘミデスモソームのBP180に結合すると補体が活性化され,炎症性細胞の活性化,さらには放出されるプロテアーゼなどの炎症性酵素によって水疱が形成されると考えられています (21) .抗BP180自己抗体の主要なエピトープは,NC16aと呼ばれる膜近傍の細胞外領域に位置する非コラーゲン部位で,水疱性類天疱瘡患者の血清の大部分がNC16aに反応性を示します.

一方,BP230は細胞内に局在する分子であるため,抗BP230抗体が直接水疱形成を惹起する可能性は低いと考えられています.しかし,水疱性類天疱瘡の患者血清で高い特異性をもって検出され,抗BP180抗体陰性の水疱性類天疱瘡の患者血清で抗BP230抗体が検出される場合もあることから,抗BP180抗体とともに,水疱性類天疱瘡の診断における臨床的有用性が検討されています (22)


後天性表皮水疱症と抗タイプ VII コラーゲン抗体

基底板と真皮をつないでいる係留線維の主成分であるタイプVII コラーゲンに対する自己抗体が産生されると,真皮と表皮の間の接着が障害を受けます.正常皮膚を1M食塩水で48時間処理することで表皮と真皮を剥離させた後 (スプリットスキン法,SS法) ,後天性表皮水疱症患者由来の血清で抗体染色すると真皮側が染まります.これに対し,水疱性類天疱瘡患者由来のIgG抗体では表皮側が染色されるので,両者を鑑別できます.

タイプVIIコラーゲンは,コラーゲン領域 (COL)がN末端側の145 kDaの非コラーゲン領域 (NC1) とC末端側の34 kDaの非コラーゲン領域 (NC2) で挟まれたα鎖が三重らせん構造をとる非繊維性コラーゲンです.後天性表皮水疱症患者中の抗タイプVIIコラーゲン自己抗体の主要エピトープはNC1領域内に,マイナーエピトープはNC2領域内に存在します (23)